最近ふと身の回りの整理をしていましたら、書類棚からある新聞の切り抜きを見つけました。おもしろいな!と思って、いつかブログに書こうと思っていたものなのですが、どうやらそのまま忘れてしまったみたいで、今になって書類のスキマから出てきたのでしょう。今回はその新聞の切り抜きを抜粋して、記事にさせていただきます!
『日本経済新聞 2010年8月14日 エコノ探偵団(という名前の連載記事)』
「初めての海外旅行で家族とハワイに行ったんだ。」近所の小学生、国本玄輝が事務所にやってきて探偵、深津明日香に土産話をした。「でも、お母さんが両替に手間取っていたよ。世界中同じお金にすれば楽になるのに、なぜそうしないの」
世界共通の通貨 なぜないの?
二人はまず、両替の仕組みを調べようとみずほ銀行に出かけた。「両替では手数料をいただいています」と応対した水村裕治さん(34)は話す。「店までの輸送費や万一に備えた保険料などが必要だからです」。同行は外国のお金を18種類用意し両替に応じている。取引の半分は米ドルだ。
両替の時に手数料がかかるのはトラベレックスジャパン(東京・港)など両替専門店も同じだった。「最近は円高が進んでいるし、外国との貿易で大金を扱う会社はもっと大変じゃないかしら」
自動車会社のホンダに足を運んだ2人に鈴木真志さん(47)が答えてくれた。「円以外のお金を使う商売は全体の8割。1円円高・ドル安が進めば、会社の本業のもうけ(営業利益)は年間で170億円なくなります」。トヨタ自動車なら300億円、コマツは30億円減ることも分かった。
円安だと逆に利益が増えることもあるが、最初から通貨が同じなら為替の動きに頭を悩ませることもなくなる。「両替の多いドルと円を一緒にするとか、いくつかの国で同じ通貨になれば、利点がたくさんありそうだわ」。明日香は京都大学教授の翁邦雄さん(59)に疑問をぶつけた。
しかし、翁さんの答えは違った。「共通の通貨にすると、それを使う国は独自に金利を変えるような政策をとれなくなります」。各国の間でお金の価値を守るために足並みをそろえる必要があるためだ。これで苦しんでいるのがユーロを導入しているギリシャだ。
ギリシャは独自の通貨ドラクマを捨て、ドイツやフランスなどが使うユーロに切り替えた。ドラクマがあった一昔前なら、自国の経済が苦しい時に金利を下げお金がたくさん出回るようにしたり、政策的にドラクマをほかの通貨より安くして輸出増やしたりすることが自国の責任と判断で可能だった。
ユーロではそれができない。もし日本が外国と共通の通貨を採用したとしても同じ問題が起こる。「ユーロみたいな共通的な通貨をもつのは例外的なのかな」。
調べてみると、共通のお金を使うのはユーロのほか、中米・グレナダなど8ヶ国・地域で利用可能な「東カリブ・ドル」や西アフリカの「CFAフラン」などにとどまることが分かった。2人は海外駐在の経験が豊富な商社マンを訪ねた。伊藤忠商事の川島美裕さん(38)から米国のドルを使う中米のパナマの話を聞くことができた。
運河で有名なパナマは「バルボア」という独自の通貨があるが、1ドル=1バルボアの比率で固定している。硬貨はパナマ独自のものがあるが、紙幣は米ドルだけ。「ほかの中米諸国もタクシーなどで米ドルが使え、便利でした」。三菱商事の松枝直樹さん(44)は「銀行の預金は米国と同じ利息がつきました」。
「共通のお金を使ってうまくいくには経済の構造が似ているといった条件が必要です」。と一橋大学教授の小川英治さん(53)が教えてくれた。パナマは経済で米国との結びつきが強く、通貨を統一しておけば米国との貿易で両替などの費用がかからない。お金の価値が安定し物価も抑えられるからドルを使っている。
近隣や大国のお金を自国で使う国はパナマのほかにもあるが、経済の規模が比較的小さい国か、アフリカのジンバブエのように経済が極めて悪化した国に限られる。「日本も、という単純な話ではないわね」と二人はうなずき合った。
2人は国際基督教大客員教授の岩井克人さん(63)にも聞きに行った。「そもそも通貨の発行には相応の経済的利点があります」と岩井さんは指摘する。例えばその国の通貨が使える範囲が広がるほど、自国の製品を生き渡らせやすくなる。「他国にその権利を譲り渡して相手を潤すようなことはやりにくいでしょう。国のメンツも大きいですね」。
「通貨発行の権利を手放すとなればさまざまな抵抗がでてきます」と財務大臣を務めた衆議院議員の藤井裕久さん(78)も話す。じつはアジアで通貨を一緒にする構想がある。鳩山由紀夫前首相は前向きであったが、各国の状況があまりに違うため、藤井さんは自分が大臣の時には検討しなかった。
中東ではサウジアラビアなど6ヵ国が共通の通貨を2010をめどに導入しようと計画していた。しかし通貨の発行や政策を仕切る組織の立地を巡って意見が対立。結局、導入は先送りになった。
明日香は事務所で報告書を書きながら独り言を言った。「相手と自分の状況をよく考えないと一緒になるのは難しいのね。結婚と似てるかも」 (初田聡さん)
※写真は元記事のものではありません。
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