2018年も残すところあとわずか。何かと忙しい師走ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。
寒さ厳しい大晦日は、暖かい部屋の中でコインを鑑賞しながら、ゆったりとした時間をお過ごしいただければと思います。
来年のことではございますが、勝手ながら告知をさせていただきます。
年明けの1月12日(土)に「第12回 アジア考古学四学会合同講演会」という講演会がございます。
なんと、今年のテーマは「貨幣の世界」ということで、複数の研究者の方が古代のコインに関して講演されます。日本をはじめ古代の中国、東南アジア、オリエントなど、各専門分野の先生方がお話しされる予定です。
一般の方も入場でき、参加費や事前の申し込みは不要です。コインを専門に研究されている方々のお話を直に拝聴できる貴重な機会ですので、興味のある方は是非参加してみてください。
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・第12回 アジア考古学四学会合同講演会-テーマ「貨幣の世界」
・日時:2019年1月12日(土) 13:00~16:50
・場所:早稲田大学戸山キャンパス 36号館681教室
(地下鉄東京メトロ東西線 早稲田駅から徒歩3分)
・主 催:日本考古学協会、日本中国考古学会、東南アジア考古学会、日本西アジア考古学会
・対 象:一般・学生・研究者
・参加条件:参加費・資料代無料、申し込み不要
・詳細リンク先
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さて、今年最後のブログは、古代ギリシャの代表的コイン「アテネのフクロウコイン」に関する記事です。
誰もが知るこのフクロウコインは、紀元前5世紀に都市国家アテネで発行されたテトラドラクマ銀貨です。このコインにはアテネの守護女神アテナと、その聖鳥であるフクロウが表現されており、多くの方が本やパンフレット、博物館での展示やアクセサリーのモティーフなどで目にしたことがあると思います。
アテネ BC454-BC430 テトラドラクマ銀貨
裏面にはフクロウと共に、オリーヴとΑΘΕ銘、そして「小さな月」が確認できます。
この月が示唆することについては様々な説が存在し、未だ明確な答えは定まっていないのです。
この月の形は「二十六夜月」と呼ばれ、旧暦(太陰暦)の26日にみられる月であることからこう称されています。また夜明け前の午前1時~3時頃に現われることから「有明月」とも呼ばれています。
二十六夜月
古くからある説では、ペルシア戦争においてギリシャ連合艦隊がペルシア艦隊を破った「サラミスの海戦」がBC480年9月の二十六夜月の週に行われたことから、歴史的大勝利を記念してデザインに取り入られられたと云われています。
同じくアテナ神が被っている兜に施されているオリーヴの紋様も、この勝利を記念しているのだと伝えられてきました。
事実、BC480年以前に発行されたコインには月が無く、アテナ神の兜にもオリーヴはみられません。
アテネ BC500-BC480 テトラドラクマ銀貨
もうひとつの説は、フクロウはアテナ神の化身であり夜の姿と云われていることから、月は夜半であることを示している、すなわち「場面の時間」を表現しているというものです。
そうすると、コインの表が「日中のアテナ」であり、裏面は「夜のアテナ」と捉えることができます。表面のアテナ神の兜にはオリーヴが施され、裏面にもオリーヴの枝葉が配されています。
さらに注目すべきことに、表面のアテナ神にも、注意深く見ると「小さな三日月」が表現されています。
ここで注目すべきは、裏面のフクロウの傍に表現された月とはなっているという点です。この形は陰暦3日目に現われることから、文字通り「三日月」と呼ばれ、一月の間で最初に目視できる月である事から「初月」などとも呼ばれます。
この三日月は日の入りすぐの夕方の時間帯に見られます。
つまり表面のアテナ神は日の入り直前の「日中の姿」であり、裏面のフクロウ(有明月=夜明け前)はアテナ神の「夜の姿」と捉える事ができます。
しかし実はこの仮説には謎もあります。
裏面のフクロウの月(=二十六夜月)は全てのコインに共通して表現されています。しかし表面のアテナ神の月(=三日月)は確認できるものもあれば、明らかに最初から配されていないと思われるものもあるのです。
・月あり
・月なし
なぜ同時期に二つの異なるタイプが存在するのか、造られた年代によるものか、彫刻師の判断によって意図的に省いているのかは不明です。
さらに言えばこのアテナ神の額付近にある三日月は、デザインとしてはあまりにもさりげなさ過ぎて、一見すると極印自体の傷か、はたまたアテナ神の兜から少し飛び出した前髪のようにも見えます。
中には明瞭に三日月と判別できるものもありますが、兜のオリーヴの延長線上にあるような、たよりない表現のものもみられます。
この三日月の意味については不明な点が多く、またあまり注目もされていない為、あくまで仮説の域から出ていないのが現状です。もしこの三日月の謎についてお詳しい方、自説をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ご教示いただけますと幸いです。
フクロウコインをお持ちの方がいらっしゃいましたら、お手持ちのコインを確認してみて下さい。アテナ神の額近くに「三日月」があるかないか、それを確かめるだけでも面白く、またその謎の解明に挑戦するのも楽しいかと思います。
平成30年、2018年も残すところあと1週間。今年も当ブログをご覧いただき、本当にありがとうございました。
来年も随時ブログを更新し、コインの魅力を発信していきたいと思いますので、何卒お付き合いの程よろしくお願い申し上げます。
平成最後の大晦日・お正月が皆様にとって楽しいものに、そして来る新年が良い年になりますように・・・。
>キモトヒサヨシ様
コメントありがとうございます。
カエサル発行のコインは基本的に「CAESAR」銘が打たれており、他の文字を使用して名前を変えている可能性は低いと思われます。
考えられるのは、複数の極印で製造していたために生じた「文字エラー」か、「E」銘が磨耗または目詰まりしたため生じた「文字欠け」である可能性があります。
もしよろしければ、参考の画像を以下のメールアドレスに添付していただけますと幸いです。
[email protected]
何卒宜しくお願いします。ご参考になりましたら幸いです。
投稿情報: フジタク | 2021/08/28 16:16
ガイウス・ユリウス・カエサル - Wikipediaで検索すると「CAISAR」と刻印されたディナリウス銀貨があります。一般的には「CAESAR」ですが「CAFSAR」と「F」が刻まれたコインを持っています。検索して探しても「I」、「F」を使用した様子がありません。ほかの文字を使用した可能性を捜しています。コインの出どころはドイツの大コレクターです。
投稿情報: キモトヒサヨシ | 2021/08/08 18:06
>キモトヒサヨシ様
コメントいただきありがとうございます。
ご指摘の通りドデカドラクマ(=20ドラクマ)とデカドラクマ(=10ドラクマ)は贈呈用として特別に製造されたものであり、シラクサやアテネ、プトレマイオス朝エジプトなど限られた地域で造られました。
調べた限り、この中間にあたる重量の銀貨(15~16ドラクマに相当)についての情報は発見できませんでした。
お役に立てず申し訳ありません。ご参考になりましたら幸いです。
投稿情報: フジタク | 2021/05/23 23:14
贈答用コインだと思いますがドデカドラクマ銀貨(86g)とデカドラクマ銀貨(43g)の中間の銀貨(63g)があったのではないかと思いますが、呼び名は何というのでしょうか。
投稿情報: キモトヒサヨシ | 2021/05/15 16:38
> atom1954jp様
こちらのアドレスに写真を添付できるかと思います。
[email protected]
宜しくお願いします。
投稿情報: フジタク | 2020/05/26 15:34
> atom1954jp様
コメントありがとうございます。
紀元前4世紀末頃から、アテネでも少量の金貨が造られたようです。現在では大変希少品です。
もしよければ、写真をメールで送っていただければ幸いです。
宜しくお願い申し上げます。
投稿情報: フジタク | 2020/05/26 15:31
テトラドラクマ銀貨で両端にオリーブの葉があり、月はなくAOEの文字もありません。Oがあるだけです。フクロウは正面を向き両足は棒のように細いです。複製品には見えないのですが絵柄の種類はいろいろあるのですか。
投稿情報: atom1954jp | 2020/05/16 14:57
手元に含有量のわからない明らかな金貨を1枚持っています。市場では見かけない品物です。この時代には金貨は製造されていたのでしょうか。写真を張り付け出来ないのが残念です。
投稿情報: atom1954jp | 2020/05/16 14:47
コメントありがとうございます。
「ΑΘΕ」は「ΑΘΗΝΑΙΩΝ(アテナイの)」を省略して表現した銘とされています。
しかしなぜ「Ε」を使用しているのかは実は明確に分かっておらず、表面のアテナ女神を示す銘という説も存在します。
古代コインの銘文は独特な省略表現を用いることがあり、アテネのフクロウコインに関しても同様といえます。
明確なお答えにならず申し訳ありませんが、ご参考になりましたら幸いです。
投稿情報: フジタク | 2019/10/28 15:10
初めてコメントさせていただきます。
古代ギリシャに興味があり調べている者です。
フクロウとオリーブのドラクマ銀貨を見ていて、ふと疑問に思ったことがあり、よろしければご教示いただけないかと思い、ここから質問させていただきます。
アテナイは古代ギリシャ語でΑΘΗΝΑΙと綴りますが、なぜコインの刻印はΑΘΗではなくΑΘΕなのでしょうか?
自分なりに色々と調べてみてはいるのですが、いまだ決定的な答えに辿りつきません。
ご存じでしたら、教えていただけましたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
(こちらの記事の三日月のお話、とても興味深く拝見いたしました! 見落としてしまいそうな小さなところに、すごい謎が隠れているのですね……)
投稿情報: キュノスーラ | 2019/10/06 17:44