本日2016年4月21日、イギリスのエリザベス2世女王陛下が誕生されて90周年を迎えられました。
1926年(日本は昭和2年)4月21日に誕生されたエリザベス2世女王陛下は、英国史上最高齢の君主として記録されます。
また、昨年9月9日には、かつてのヴィクトリア女王を抜いて英国史上最長の在位を記録されたことでも知られます。
即位して間もないエリザベス2世女王陛下
女王陛下が誕生された1926年は、祖父にあたるジョージ5世の治世にありました。後に父ジョージ6世が即位すると、長女であるエリザベスが次期王位継承者となります。
第二次世界大戦中は軍用トラックを自ら運転され、戦後はジョージ6世と共に国内外を巡り、戦後イギリスの復興に尽力するなど、積極的に国家や国民との関わりをもたれました。
1952年2月、当時まだ英国領だったアフリカのケニアを訪問中、イギリス本国で療養していたジョージ6世が崩御されたことで、25歳にして英国と英連邦諸国の女王に即位されました。
1952年といえば、当時のイギリスの首相はウィンストン・チャーチル、ソ連の最高指導者はヨシフ・スターリンであり、まだ第二次世界大戦直後の面影が色濃く残り、東西冷戦という新たな時代が始まったばかりの時期です。この頃まだベルリンの壁は無く、後にキューバ革命で知られるチェ・ゲバラすら無名の時代です。
チャップリンやアインシュタイン、ピカソといった世界史上の著名人は現役であり、空港の名にもなっているシャルル・ド・ゴールはまだフランス大統領になっていません。
日本の近くでは朝鮮戦争が続いており、占領状態から主権を回復させたサンフランシスコ講和条約や、日米安全保障条約が発効したのもこの年です。
エリザベス2世女王陛下の治世は、冷戦~21世紀の今日まで、変化に富んだ現代史をそのまま表しています。1952年の即位当時、イギリスはまだアフリカ大陸やカリブ海、アジアや中東に多くの植民地を保有しており、女王はそれらの最高元首でもありました。しかし長い治世の間に続々と植民地は独立し、大英帝国は事実上解体することになりました。
しかし、いまだ女王はイギリスのみならず、カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・パプアニューギニアなど16カ国の国家元首を兼任し、各国の総督は「女王の名代」という位置づけをされています。また、マン島やガーンジー島、ジャージー島など英国王室が保有する領地の領主でもあります。
現在、世界中で発行されているコインや紙幣の肖像に最も多く用いられている人物がエリザベス2世女王であることを鑑みれば、その影響力の大きさがわかります。特に戦後から今日まで、世界各地の英国自治領や海外領土、英連邦諸国が毎年多種多様な記念コインを発行していることから、現時点で人類史上、「最もコインの肖像に刻まれた人物」といえるのではないでしょうか。
先述した国々から小さな海外領土に至るまで、各地で発行されるコインや紙幣の肖像には、エリザベス2世女王の肖像が用いられています。イギリスからみて地球の反対側にある国の、小さな田舎町の小さなスーパーマーケットで使われているコインにも、女王の肖像が刻まれているのです。
ちなみに、ご高齢になられた今でも女王陛下は積極的に公務を続けておられ、新しいコインの肖像や王室関連の記念コインが企画された祭には、候補をある程度絞った後に、女王陛下自らがデザインを選定されるそうです。イギリスのコインは英国王立造幣局で彫刻、刻印まで一貫して製造されており、女王陛下ご本人の意向が反映されやすいのかもしれません。
その肖像刻印はイギリス本国と全く同じものもあれば、各国独自のものもあります。即位した20代の頃の肖像をそのまま使用している国もあれば、最近の高齢の肖像を使用している国もあるのです。その為、エリザベス2世のコイン肖像には非常に多様なバラエティが見受けられます。
・ エリザベス2世 コイン肖像の変遷 (※イギリス本国の通常貨)
メアリー・ギリックによる作 即位当初の肖像 (イギリス ソヴリン金貨)
(1953年~1967年の通常貨に採用。オーストラリアなどでも用いられた。)
アーノルド・マーティンによる作 第二の肖像 (イギリス ソヴリン金貨)
(1968年~1984年の通常貨に採用。世界中の英連邦諸国で採用)
ラファエル・マクルーフ作 第三の肖像 (イギリス ソヴリン金貨)
(1985年~1997年の通常貨に採用)
イアン・ランクブロードリー作 第四の肖像(イギリス ソヴリン金貨)
(1998年~2015年の通常貨に採用)
2015年から、より年齢を重ねた「第五の肖像」に変更された
もし現代の文明が滅び、遠い未来の人々が古代ローマの遺跡を調査するのと同じようにして、我々の生活環境を調べたとしたらどうでしょう。世界中のありとあらゆる場所からエリザベス2世の肖像が刻まれたコインが大量に発見されるのをみて、「エリザベス2世こそ人類史上最大の征服者だ」と結論付けるのではないでしょうか。
植民地用のコイン肖像(モーリシャス 1971年 10ルピー)
通称「コロニアルタイプ」と呼ばれる肖像。頭部に戴く王冠は、本国やカナダ、ニュージーランド、オーストラリアのコインでは見られません。
女王の即位当時の若々しい胸像を表現しており、英領香港などでも用いられました。現在の通常貨では、中米のベリーズでみられます。
本日90歳になられたエリザベス2世女王陛下を祝って、イギリス本国では様々な記念行事も予定され、記念のコインや切手も世界中で発行される予定です。
尚、イギリスでは実際の誕生日とは別に「公式誕生日」というものが設定されており、女王陛下の場合は「6月の第2土曜日」とされています。これは天候が変わりやすいイギリスの気候をかんがみて、天候が良い日が多い6月に公式の祝典を行うという配慮から設定されているといわれます。
今年は6月11日が公式誕生日に当たり、イギリス本国だけでなく英連邦諸国、海外植民地、また各国のイギリス大使館ではその日にあわせて公式の式典が予定されています。また6月になれば、世界中で女王陛下の長寿を祝った記念のコインや切手が発行されることでしょう。
今後のエリザベス2世女王陛下の長寿と健康、末長い治世をお祈り申し上げます。
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