こんにちは。
4月から発出されていた「緊急事態宣言」がこの度、全国で解除されました。これでとりあえず、ひとつの大きな山を越えたようです。
しかし新型コロナウィルスが完全に消え去った訳ではなく、引き続き警戒と対応策が必要です。
このウィルスに罹患された方々へはお見舞い申し上げますとともに、医療関係者や行政機関をはじめ感染拡大防止に日々尽力されている多くの方々に深く感謝いたします。
営業を縮小・自粛していた当店「ワールドコインギャラリー」は、5月いっぱいは引き続き営業を自粛し、6月1日(月)から通常通りの営業(11:00~19:00 水曜日定休)を再開します。
店舗内での営業再開に当たっては、しばらくの間は消毒液の設置やマスクの着用など、最低限の感染対策を講じ、お客様に安心してご来店いただけるよう努めます。
4月初めから自粛していた店舗での営業も、ようやく再開できそうです。お客様へは長らくご不便・ご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。6月以降、通常営業・店舗営業が再開されましたら是非お越しください。皆様方とお会いできるのを心待ちにしております。
海外からの人の動きはいまだ再開の目途が立ちませんが、物流は少しづつ改善されているようです。ドイツやアメリカでは各種制限が緩和されつつあるため、オークションで落札したコインが元通り届くようになりました。
しかしイギリスなど、まだ段階的に制限が緩和される国もあるため、今まで以上に配送に時間がかかる状態は続きそうです。
今年はこれまで以上に変化の多い一年になりそうですが、健康第一に新しい生活を作っていただければ幸いです。
まだまだ元通りの日常を回復させるのは時間がかかりそうですが、一日も早く平和な日常が戻りますことを心より望んでおります。
今回は今後の見通しが良くなるように、新型コロナウィルスの収束が早まることを願って、古代ギリシャの医術の神アスクレピオスが表現されたコインをひとつご紹介します。
このブログでも度々取り上げてきましたが、改めてアスクレピオスについてご紹介します。
アスクレピオスは光明神アポロとテッサリアの王女コロニスの間に生まれた半神半人でした。ある時、カラスからコロニスが浮気していると報告を受けたアポロ神は、怒りからコロニスに矢を放ち射殺。しかし後からそれが間違いだったことに気付いたアポロ神は、荼毘に付されようとしているコロニスの遺体から子供を取り上げました。この子がアスクレピオスと伝承されています。
(※誤った報告をしたカラスは罰として、美しい白羽を漆黒に変えられたと云われています)
アスクレピオスは半人半馬ケンタウロスのケイロンに託され、彼の教育を受けて成長しました。粗野なケンタウロス族の中にあってケイロンは賢者であり道徳者とされ、この時アスクレピオスには優れた医術が授けられました。
竪琴を持つケイロンが表現されたコイン(ビテュニア王国, BC182-BC149)
さらにメドゥーサの血を用いて蘇生まで行ったことから「死者を蘇らせる名医」として、神話上では多くの英雄たちを蘇らせました。しかし冥界の王ハデスは死者たちが自分の領域から引き戻され、役割がなくなってしまうことを恐れたため、最高神ゼウスに訴え出ます。天界・地上・地下の秩序が乱されることを危惧したゼウス神はアスクレピオスに雷を打ち、天界に召し上げることでこれを解決しました。
それ以降、アスクレピオスは「神々の医師」として活躍し、その功績から医術の神として奉られるようになったとされます。
現在でもクスシヘビが巻き付いたアスクレピオスの杖は、WHO(世界保健機関)や病院の紋章をはじめ、医療のシンボルとして広く認知されています。
古今東西変わらず、古代ギリシャにおいても健康は人々の重要な関心事でした。「治療」という現実的で分かりやすい効用は階級に関係なく人々に求められ、それゆえアスクレピオス信仰はギリシャ世界全体に広まりました。コリントの近くにあったエピダウロスがアスクレピオス神の出身地とされ、医神の聖域として多くの治癒を求める人々が集まりました。
アスクレペイオンの内部(想像図)
人々の求めから、エピダウロスから分祀されたアスクレピオス神殿(アスクレペイオン,聖域)がアテネやコス島、パロス島などギリシャ各地に設けられました。聖域として選ばれる地は清らかな湧き水や温泉に恵まれている場合が多く、清潔さや癒しが重視されていたことが分かります。聖域はさながら病院のようであり、多くの患者は滞在中に安静にすることで病気からの回復を期待しました。周辺には劇場や商店、運動場、大浴場が併設される例もあり、湯治場のような活気があったと推察されます。
アスクレペイオンでは夢の中にアスクレピオス神が現れ治療法を伝授したり、眠っている間に治療を施してくれるとも云われ、信仰=治療が一体となったものでした。
寝ている病人を癒すアスクレピオス神
一方で神官や医師たちによる投薬治療・外科手術もあり、医学的な研究もおこなわれ医学校としての側面も兼ね備えていました。古代ギリシャの名医ヒポクラテス(BC460-BC351?)はコス島の出身であり、現地のアスクレペイオンで学んだとされています。彼はアスクレピオス神から数えて19代目の子孫とされ、現代でも医学の父として尊敬されています。
ただ併設された設備や夢診断などからも分かるように、多くは保養を第一として自然治癒に向かわせる方針だったようです。当時から心身のリラックスが健康にとって最良と認められていたのかもしれません。
アスクレペイオンから出土した浮き彫り
アスクレペイオン跡からはこうした身体の一部を模った浮彫が多く発見されています。多くは患者がアスクレピオス神に治してもらいたい箇所を祈念するため、または治癒した感謝を示すために献納したものと考えられています。大理石やテコラッタ、蝋など様々な材質で作成されていることから、幅広い階層の人々が献納したしたことが分かります。
こうした身体の部位は多岐にわたり、目や口、鼻や耳などの顔から腕や足、乳房や性器などがみられます。こうした出土品から当時のギリシャ人たちの健康上の悩みが窺えます。また献納年代は幅広いですが、献納者の男女比はおおよそ同じ程度であることも判明しています。
ペルガモン 紀元前2世紀後半 (23mm, 9.44g)
この青銅貨はアスクレペイオンで有名だった小アジアの古代都市ペルガモン(現在のトルコ西部、スミルナの北)で発行されました。ペルガモンは劇場や図書館などが完備された、ヘレニズムを代表する文化都市のひとつでした。ペルガモンのアスクレペイオンはローマ時代にも引き続き利用され、カラカラ帝などのローマ皇帝も立ち寄るほどの名所として栄えました。
当時の通用価値ははっきりと分かりませんが、一般市民が日常的に使用していた単位のコインとみられ、治癒を求めて当地を訪れた巡礼者も手にしたものと想像されます。
表面にはゼウス神によく似た姿のアスクレピオス神、裏面にはその象徴であるクスシヘビが、聖石オンファロスに巻き付く姿で表現されています。左右には「ΑΣΚΛΗΠΙΟΥ/ΣΩΤΗΡΟΣ(アスクレピオス 救世主)」銘が配されています。
オンファロスはアポロ神の神託で知られた聖地デルフォイの神殿地下にあったとされる聖石であり、保護のため羊毛で覆われていたと伝わります。コインのオンファロスに刻まれた網模様は、この羊毛を表現しています。オンファロスは「へそ」を意味し、世界の中心を示すものと云われました。伝承ではゼウス神が天空の両端から鷲を飛ばし、ぶつかった地点(=デルフォイ)を世界の中心と定め、記念碑として聖石を置いたともされていますが、その由来は当時から謎とされていました。
聖石オンファロス
デルフォイにあったオンファロスは未発見ですが、当時から複製品が作成され地上の神殿に参拝した人々にも見えるようになっていました。その複製品もまた各都市で作成され、神殿などで祀られていたようです。ペルガモンでも同じような複製品が祀られていたのか、コインではヘビと組み合わせされた興味深い姿で表現されています。
古代ギリシャの人々が願ったのと同じように、医術の神様の加護で現代の疫病も退治できると良いですね。皆様の健康と安心を心から願っております。
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