こんにちは。
9月の台風シーズンを経て、少しずつ涼しくなってきましたね。暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったものです。
今月8日、イギリスの女王エリザベス2世が崩御されました。このニュースは世界中に影響を与え、日本のメディアでも連日のように取り上げられました。それだけ女王の存在感、影響力が大きかったことが窺えます。
在位期間は今年で70年、96歳であり、イギリスの歴史上最長・最高齢の君主として歴史に名を残します。今年は御在位70周年の「プラチナジュビリー」の式典にもお姿を見せ、崩御される2日前には新首相トラス氏への謁見と任命を行っており、最後まで君主としての役割を果たされました。
改めて女王の長きにわたる治世と生涯に敬意を示し、心より哀悼の意を表します。そして王位を継承されたチャールズ3世の御代が永く栄えあることを祈りたいと思います。
国葬は女王の生前から計画されていた通り恙無く挙行され、棺は父王ジョージ6世や母エリザベス王太后、前年に亡くなった夫のエディンバラ公フィリップ殿下と共に、ウィンザー城内の礼拝堂に安置されました。葬儀から葬列までの一連の儀式はイギリスのみならず世界中に中継され、時代の節目をリアルタイムで目撃することになりました。
女王の葬列はヴィクトリア女王(在位:1838-1901)の国葬以来およそ120年ぶりです。当時も60年以上に及んだヴィクトリア朝時代の終焉を見届けようと、多くのロンドン市民がつめかけて女王を追悼しました。
当時イギリスに留学していた夏目漱石も葬列を見送る群集のひとりとして、この歴史的な催行を目撃・記録しました。背の高いイギリス人に囲まれた夏目漱石は通りを見ることができず、下宿の主人に肩車をしてもらって女王の棺を見ることができたそうです。
1952年の即位から2022年の崩御まで、70年に亘って女王として君臨されたエリザベス2世は、現代を生きる人々にとって馴染み深い存在でした。在位中はイギリスと英連邦諸国で発行された数多くの切手と紙幣、そしてコインにそのお姿が表現されていました。直接会ったことがない、地球の裏側の国の人々にとっても、日常生活の中にある身近な人物です。
世界各国で採用されたエリザベス2世の紙幣肖像
70年に及ぶ治世の間に、コインの肖像は年相応のものに変更されていったことはよく知られています。最初は戴冠式が催行された1953年発行の英国コインに採用された、通常「ヤングヘッド」と呼ばれるタイプです。この頃のイギリスは十二進法の時代であり、まだシリングやフローリン、クラウンといったコインが流通していました。
イギリス 1958年 ソヴリン金貨
25歳で即位したエリザベス2世の若々しい姿を表現した肖像。王冠ではなく「月桂冠」を戴く、古代ローマから続く古典的な表現。当時71歳だったロンドン在住の女性彫刻家メアリー・ギリックが手掛け、6つの候補作品の中から女王自らが選びました。
この肖像はイギリスだけでなく、カナダやオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなど英連邦諸国のコインにも採用されました。ただしイギリスやニュージーランドに比べ、オーストラリアやカナダ、南アフリカの造幣局で製造されたコインの肖像は打刻が弱く、不鮮明な肖像になっています。
イギリス 1981年 ソヴリン金貨
1971年に従来の十二進法から、1ポンド=100ペンスの十進法に変更されたのに伴い、シリングやフローリンは廃止され、新しいコインが発行されました。それに合せて女王の肖像も刷新され、ローブを纏いティアラを戴いた肖像に変更されました。この肖像は彫刻家アーノルド・マーチンの作品であり、同時期に発行された普通切手の女王肖像も彼の作品です。
この切手肖像は、切手収集家でもあった女王が特に気に入っていたとされ、現在までイギリスの普通切手に使用され続けています。同じくアーノルド・マーチンが手掛けたコインの肖像も、女王本人は気に入っていたのではないでしょうか。
イギリス 1988年 ソヴリン金貨
1985年から採用された第三の肖像は王冠を戴くタイプであり、彫刻家ラファエル・マクルーフによる作品です。頭像はより大きく、これまでより表情がはっきり分かるものです。女王らしい威厳に満ち、イギリスの君主に相応しい彫刻です。
イギリス 2006年 ソヴリン金貨
1998年からはイアン・ランクブロードリーによる肖像となり、老齢に達した女王の写実的な姿を彫刻しています。同時期のメディア等で目にするエリザベス女王の実年齢に合せた見た目になっており、大衆がイメージする女王の肖像そのままです。
イギリス 2019年 5ポンド銀貨
最後のコイン肖像はデザイナー、ジョディ・クラークの作品であり、2015年のデザインコンペで選ばれました。当時33歳のジョディ・クラークは匿名でコンペに応募し、作品は手彫りではなくコンピューター彫刻によって作成されました。
当時90歳になろうとしていた女王の姿を上品に、気品あふれる君主として巧みに表現した作品です。残念ながら他の肖像と比べると世に出ていた期間は短くなってしまいましたが、長期間在位した歴史的女王の最後の肖像として、後世まで根強い人気が保たれるでしょう。
治世当初はイギリスで発行されたコインの肖像⇒世界の英連邦諸国・植民地のコインに使用されるのが通例でしたが、各国の独立性に伴い、女王の肖像も国によって独自のものが採用されるようになりました。
発行国・地域や年代によって異なる女王の肖像を比べてみるのも興味深い収集方法です。
英領バミューダ 1964年 1クラウン銀貨
王冠を戴く「コロニアルヘッド」タイプは、香港やカリブ海地域など植民地のコインに表現されたタイプです。この伝統はヴィクトリア女王以来、大英帝国のコインに継承されています。
カナダ 2014年 5ドル銀貨
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