古代コインはどのように造られたのでしょう。先ず、正確に計量された金属片を準備します。それは球体であったり、平たかったりしたようです。次に、きれいな彫刻が施された型板二枚。一つは表側、もう一つは裏側用です。型板はゼリー型のように内側に凹みで彫られています。金床の上に型板をセットし、溶かした金属片をそそぎます。その上に裏面用の型板をかぶせます。1~2回ハンマーで打つと、何でもない金属片はコインに生まれ変わります。彫刻から鋳造まで当然手作業です。
南イタリアにある古い植民地、メタポンティオンには少し変わった彫刻のコインがあります。表面に浮き彫りにされた意匠が、そのまま裏面に凹んで打刻されているものです。彫り職人は型の方を図柄が浮き出るように平らな部分を削り、コインが打たれる時、裏側は凹みでプレスされます。このような彫刻を「インキューズ」といいます。
ご覧のコインは裏面がインキューズのものです。メタポンティオン産の大麦の穂がデザインされていますが、長い毛足が非常に繊細に彫られていますし、縁取りはビーズのような細かい模様で囲まれています。『META』のギリシャ文字もはっきりとしています。彫刻・鋳造とも高い技術を感じさせる逸品です。
メタポンティオンはイタリア近くのギリシャの都市で、河で潤った平野と湿地帯が豊富な穀物を産し、交易も行われました。山の多いギリシャ本土ではこのような穀物の生産に適した土地は貴重だったのです。大麦が彫られたこのコインは豊かな土地を宣伝し、都市の役割を表す印となりました。また、麦の穂は豊饒の女神デメテルの信仰を表しています。
インキューズのコインは、クロトン・シバリスといったイタリアの地方都市で主に生産されましたが、紀元前450年頃から見られなくなりました。
コメント