こんにちは。
雨模様の日も多く気温が一気に下がってまいりました。この時期は特に風邪を引きやすいので注意が必要です。
今月はコインにまつわるこんなニュースがありました。目にした方も多いと思います。
読売新聞記事ページ
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「幻の貨幣」50万枚を京都の倉庫で発見…表面に富士山、裏に桜の「1銭陶貨」
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【埋蔵金伝説】第二次世界大戦中に製造された「幻の貨幣」 土で出来た「陶貨幣」は流通前に終戦し破棄 令和に発見 流通価格は衝撃の「5億円」〈カンテレNEWS〉
太平洋戦争の末期、金属不足に対応するため苦肉の策として登場した「陶製のコイン」は、流通する前に戦争が終結したため世に出回ることはありませんでした。
苦しい戦争の時代を象徴するコインとして、日本貨幣収集界では有名なものでしたが、戦後80年を経ようとしている現在に50万枚も現存していたことは驚きです。
陶製のコインは第一次世界大戦後のドイツに登場し、地域通貨ノートゲルトの一種として各地で盛んに発行されました。多くはマイセンで造られ、デザインや大きさ、色も多種多様でコレクターズアイテムの一種として人気がありました。日本でもドイツの陶貨を参考にし、民間の陶器企業に研究と製造が委託されたのです。
ドイツ アイゼナハ市 1921 1マルク陶貨 マルティン・ルター
陶製のコインは100年前から存在していましたが、近年ではプラスチック製のコインも登場しています。
モルドバとウクライナの間に存在する未承認国家「沿ドニエストル共和国」では2014年にカラフルなプラスチック製コインが発行されました。
同国を支援しているロシアで製造され、半ば実験的に導入されたようです。1ルーブルから10ルーブルまでの四額面が発行され、サイズと重量はほぼ同じながら、形状と色を変えることで混同しないように配慮されています。
このコインは実際に沿ドニエストル国内で流通していたようですが、継続的な発行はされなかったようです。その後ロシアをはじめ他国が導入したという例はなく、現在では外国人向けのお土産のようになっています。コストは金属より安いのかもしれませんが、耐久性や自動販売機での使用など、実用面では問題があったのかもしれません。
コインといえば金属製で完全な円形のイメージが定着していると思います。製造方法や貨幣経済のあり方が代わっても、コイン=円形という固定されたイメージが変わることは無いように見受けられます。
貨幣価値が金属の素材とその重量によって決まる時代では、形状はあまり問題にならなかったといえるでしょう。
ブラジル 1869年 20レイス銅貨
スウェーデン 1939年 2クローナ銀貨
しかし長い貨幣の歴史では様々な素材、形状のコインが存在しました。古代中国では刀銭、ギリシャのスパルタでは針金状の貨幣など、円形の枠に留まらない形で作られていました。こうした形状の違いは価値観の変化もありますが、他額面のコインと区別しやすくするためや、他国のコインとの混同を避けるといった実用的な意味もありました。
紀元前5世紀 黒海沿岸都市オルビア イルカ型銅貨
《四角形》
2000年以上前のバクトリア王国(*現在のアフガニスタン~パキスタン北部)では四角形のコインが登場しました。四角形のコインは現在まで世界中で度々登場しており、円形に次いで例が多いように思われます。
バクトリア王国 紀元前180年-紀元前160年 ドラクマ銀貨
文字だけのコインの場合、四角形は収まりがよく、スペースを有効に活用できます。そのため偶像が禁じられているイスラーム諸国や、江戸時代の日本などでも四角形のコインが発行されていました。
ムワッヒド朝 1121-1269 ディルハム銀貨
インド ムガール帝国 1580-1581 ルピー銀貨
江戸時代 1837-1854 天保一分銀
同じ四角形でも菱形にしたデザインのコインも発行されています。20世紀以降はイギリスの海外植民地で多く見られます。
英領バハマ 1969年 15セント白銅貨
流通用の四角形コインは角があるため、円形に比べて欠けやすいという難点がありました。
近年では流通を目的としない記念コインとして四角形のコインが採用されています。一目で通常のコインとは異なる形状であるため、特別な存在感が際立ちます。
トンガ 1977年 1パアンガ白銅貨
オーストラリア 2002年 50セント銀貨
《六角形》
六角形のコインは例が少なく、エジプトやインド、ビルマなどで発行されています。
エジプト王国 1944 2ピアストル銀貨
《七角形》
イギリスでは十二進法から十進法(1ポンド=100ペンス)に移行した際、新たに発行された50ペンス貨を七角形にしました。以降、イギリス本国とその属領で発行された50ペンスは七角形がトレードマークとして定着しました。1982年に発行された20ペンス貨も七角形です。
かつてイギリス領だった国々でも七角形コインが発行されています。
マン島 1979年 50ペンス銀貨
英領セイシェル 1972 5ルピー銀貨
バルバドス 1979年 1ドル白銅貨
《八角形》
インド アッサム王国 1696 1ルピー銀貨
この形状は中世のアッサムに存在したカーマルーパ王国が、仏教の経典『ヨーギニータントラ』の一節において「八面の地」と表現されていることに由来します。
《十角形》
十角形のコインも比較的例が少なく、マルタやベリーズ、英領香港などで発行されました。
マルタ 1972年 50セント白銅貨
《十二角形》
オーストラリアでは50セントが銀貨から白銅貨に切り替わった際、従来の円形から十二角形にして差別化を図りました。現在に至るまでオーストラリアの50セントは十二角形で統一されています。
またフィジーやアルゼンチン、コロンビアでも十二角形コインが発行されました。
オーストラリア 1988年 50セント銀貨
《楕円形》
楕円形、卵型のコインといえば、日本では小判や天保銭が思い浮かびます。円形に近いですが、世界的には珍しい形状であり、近年では記念コインとして見られる程度です。
特にクック諸島やニウエで発行されている「イースターエッグ」シリーズでは、そのテーマ性にぴったりな形として定着しています。
クック諸島 2013 5ドル銀貨
トルコ 2002年 7,500,000リラ銀貨
《星形》
現代記念コインは流通を目的としていないため、奇抜で珍しい形が多く登場しています。星型は特に人気のある形状ですが、高い技術力がないと製造できません。
オーストラリア 2001 1ドル銀貨&25セント銀貨
オーストラリア連邦100周年記念コイン。中央部の星型がはめ込み式になっており、その部分が25セント、外側が1ドルになっています。
《ホタテ貝型》
縁が波打った形状のコインはインドやイラク、スーダンや香港など旧イギリス領の国々に多く見られます。小額貨幣に多く用いられた形状でしたが、現在では記念コインとしても製造されています。
トンガ 1999年 1パアンガ銀貨
技術の進歩に伴い、多種多様な形のコインを製造できるようになりましたが、自動販売機など扱いにくさの問題や、製造コストの高さなどから結局は「円形」が最もポピュラーなコインの形として落ち着いています。
形を変えて識別しやすくする工夫も、現在は金属の色や大きさを変えることで対応することが一般的です。
形を変えずに中央に穴を開けることで識別しやすくする工夫は古くからあり、現在でも日本をはじめいくつかの国で採用されています。
ベルギー王領コンゴ自由国 1888 10サンティーム銅貨
今後はキャッシュレス化の進展により、日常的に小銭を使う機会は減少するかもしれませんが、記念コインの需要は変わらないように思われます。流通を目的しない貨幣であれば、奇抜な形状のコインもより一層増えていくことでしょう。
従来の枠に囚われない形のコインが次々と登場し、コイン収集の世界も賑やかになっていくことを期待しています。
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