二つのコインがあります。一つはアテネ市ができた初期の頃、豊富な銀に恵まれ幾度かの戦争と貿易を通して一層力をつけていった頃のもの、もうひとつは古代都市としてのアテネの末期に発行されたものです。一つ目のコインは表面にアテナ、裏面にはこの女神の2つのシンボルであるふくろう・オリーブの枝が描かれています。
アテナ女神はゼウスの頭から生まれた娘でオリンポス12神の一人。戦争と様々な技芸の守護神とされ、パルテノン神殿に鎮座したアテネの守護神でもあります。知恵を表すふくろうが聖鳥であり、オリーブは大地の恵みを表しています。アンフォラは、アテナ女神の祭祀に関する市の象徴とも、オリーブと共に商業貿易に欠かせないアテネの主要産品ともいわれます。「AΘE」は「ATHE(アテネの)」を表し、まさにアテネ市のエッセンスを凝縮したモチーフです。
アテネが絶頂期の時代、ギリシャ中をこの最も人気の高かったふくろうコインが飛びまわったことでしょう。
一方、二つ目のコインのスタイルは、まったく異なって見えますが、同じアテネのコインです。女神アテナはコリント風ヘルメットから羽毛飾りを垂らし、顔は均整がとれて、目も前を見据えてより写実的に描かれています。裏側にはやはりアテネを象徴するふくろうがふっくらと細密に描かれ、アンフォラ(ワインを入れる両手つきのつぼ)の上にとまっています。アテネの主要産品だったオリーブに囲まれ、左には舵を操る医神アスクレピオスが描かれています。
このコインは、マケドニアから再独立を果たした紀元前196年から、ローマに占領され造幣局を閉鎖される紀元前86年まで製造されました。このタイプは、従来のデザインを一新し、ヘレニズム美術の写実的特徴を有していることから“ニュースタイル”と呼ばれます。
素晴らしい港をもつこの美しい都市アテネは、長い間ローマの羨望の的でした。ローマの多くの貴族や富豪はギリシャの芸術作品を収集し、様式や作法を習いました。ギリシャ文化の中心地アテネを征服することこそがローマ軍人の使命であったのです。
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