こんにちは。
最近は更新がすっかり疎かになっておりました。
本日は古代コインから少しだけ離れて、現在使用されているコインに関してご紹介します。
皆さんは普段使っているコインの縁(ふち)を気にしたことはありますか? コインの世界では、ふちのことを「Edge(エッジ)」と呼びます。エッジはコインの流通状況や、これまでの持ち主の保管状況が垣間見えます。
記念コインなどではない小さなコインは、人の手から手へ渡すときになどに落としてしまうことがありますが、造幣局で造られてすぐに袋に入れられたとき、コイン同士があたって傷がつくこともあります。
もちろん、財布の中に他のコインがたくさん入っていたり、金融機関やコイン商、コレクターが同じ種類のコインを一箇所にまとめて置くなどすると、コイン同士が当ってしまいます。コインのエッジは、文字通りコインの端っこですから、そのような状況では傷がつきやすくなります。
また、紙で挟むタイプのコインホルダーに入れておくと、面の部分は傷がつかず美しく保たれますが、隙間から空気が入るのでエッジの部分だけ酸化して変色している・・・なんてことも見受けられます。円形である以上、変形させた箇所では金属に圧がかけられているため、変色が起こりやすいのです。
コインが円形であるのは、落としたときに破損しにくいから、とよく云われます。確かに、紀元前6世紀の古代ギリシャから2500年以上を経た現在に至るまで、お金の形は「円」がスタンダードです。もちろん四角形や五角形、六角形の流通用コインも多く発行されてきましたが、自動販売機が普及した現在では、むしろ円形であるほうが効率が良いとされます。
ただ、コインの素材に貴金属が使用されていた時代、コインのエッジ部分が削り取られてしまう事件も多かったようです。つまり、一枚のコインのふち部分を少しだけ削り取れば、わずかな金(または銀)を得られ、コインそのものは額面通りに使用してしまうわけです。一枚から取れる分量はほんの僅かでも、100枚、1000枚から採っていけば莫大な価値になります。
そうした変造を防止するために、コインの発行者はエッジに細工を施しました。いわゆる「ギザ十円玉」のように、エッジ部分がギザギザになっているのはその名残なのです。
古代ローマ デナリウス銀貨 サターン神 (BC106年)
紀元前2世紀~紀元前1世紀頃の古代ローマでは、コインのエッジにキザが入れられたものが発行されていました。しかし、このコインはイレギュラーなものであったようで、ある特定の年に発行されたものに限られていたようです。
偽造防止の観点からみれば大変有効に思えますが、結果的にローマでは共和政時代、帝政時代を通してギザ有りコインが定着することはありませんでした。
当時のローマでは貨幣発行担当者が毎年変わっており、その都度コインのデザインは担当官の意向に任されていたこと、また一つ一つ手作業でギザを入れるため、余計な手間が増えて大量生産には不向きであったこと等が原因として考えられます。
しかし近代に入り、大型銀貨の登場や機械によるコインの大量生産が普及すると、エッジにギザを入れることが一般化します。それは高額面ほど顕著であり、やがて装飾や文字を入れるなど凝ったものも登場しました。
ここからはタイプ別にエッジを紹介します。
1.Plain (プレーンエッジ) 【※またはSmooth】
ロシア帝国領フィンランド大公国 1917年 10ペンニエ銅貨
全く何も施されていない、最もシンプルなエッジ。主に低額面のコイン(青銅貨など)にみられます。
Plain(プレーン)エッジ、またはSmoothエッジと呼ばれます。
現在、日本では1円玉、5円玉、10円玉にみられるタイプです。
2.Reeded (リーディッドエッジ) 【※またはMilled】
イギリス 1889年 2フローリン銀貨
いわゆる「ギザ」タイプ。近代から現代に至るまで、幅広いコインに見られるエッジタイプ。
Reeded(リーディッドエッジ)、またはMilled(ミルドエッジ)と呼ばれます。
シンプルにギザが並んでいますが、溝と溝の間が狭く細かいため、容易に変造は出来ません。
現在では50円玉と100円玉、旧10円玉にみられます。旧10円玉は、似たサイズの100円玉の登場により、周囲のギザを削られプレーンエッジになりました。
現在の500円玉にもギザが入っていますが、よく見ると斜めになっているのがわかります。これは「Slant-Reeded」と呼ばれ、偽造防止には大変有効です。
3.Security (セキュリティエッジ)
英領インド帝国 1943年 1/2ルピー銀貨
Reeded(ギザ)の入ったエッジの真中に一本の溝を入れ、その中にさらに細かい細工を施したタイプ。
主に第二次世界戦中~後、銀をコインに使用できなくなったイギリス植民地で多く見られました。写真のコインも第二次世界大戦中の英領インド銀貨ですが、銀含有率は50%です。含有率の下がった銀貨の価値と信用を少しでも維持するために施された偽造防止措置と考えられます。
4.Lettered (レタードエッジ)
スウェーデン 1733年 リクスダラー銀貨
文字や銘文が表現されたもの。主に20世紀初頭までの大型銀貨や、金貨に見られました。特にヨーロッパ諸国においては顕著であり、ターレル銀貨やクラウンサイズのコインには、モットーや額面、発行年、ミントマークといった銘が刻まれました。
陰刻から陽刻まで幅広い分類がありますが、近年の記念コインには主に陰刻で打たれることが多いようです。エッジに刻まれた銘は見落とされることが多いのですが、大変意味深な興味深い文が刻まれていることもあり、ひっそりと隠されていた様々な発見もあります。
また珍しいものとしては、18世紀~19世紀のポルトガル金貨のように、魚のうろこ状になっているものもあります。薄手の金貨であるが故に、このような細工がされたと考えられます。
ポルトガル王国 1824年 ペカ (6400レイス)金貨
現在、世界各国で発行されているコインの多くに「ギザ」や、その他の加工が施されています。今では貴金属を流通用コインに用いることは無くなったため、変造防止というよりも、ほとんど形式的なものに成っています。
しかし現在では視覚に障害のある人が、似たサイズでも異なる額面のコインを触って区別できるように、ギザギザが残され、役に立っています。
皆様もお手持ちの財布に入っているコイン、または御自身のコインコレクションのエッジを一度ゆっくりと眺めてみて下さい。見落としていた、面白い発見があるかもしれませんよ。
最近のコメント