こんにちは。
関東はすっかり梅雨明けして真夏の陽気です。今年の夏は例年よりも早く到来したようにも感じられますね。
急激な気温の変化に身体はついていかない感覚です。体調にはくれぐれも気をつけて、この夏を乗り越えていきたいものです。
今回はスフィンクスのコインをご紹介します。
スフィンクスと言えばエジプトのギザのピラミッド前に鎮座する巨像が有名ですが、本来スフィンクス(Sphinx, スピンクス)はギリシャ神話に登場する怪獣の名であり、神話の姿とは若干異なるのです。
ギザのスフィンクスは男性像であり、建設年代や本来の呼称は不詳です。後世にエジプトを訪問したギリシャ人が、自分たちの神話に登場する怪獣スフィンクスに似ていることから仮称し、そのまま定着したと云われています。
エジプト 1957年 10ピアストル銀貨
スフィンクスは古代オリエントが起源とされ、エジプトやメソポタミアでも類似の壁画や像が造られました。エジプトでは神殿や聖域の守護像として設置され、東洋の獅子像(狛犬)に似た性質の存在でした。
ギリシャ神話に登場するスフィンクスは上半身が人間の女性、下半身がライオンであり、背には大きな翼がつけられています。これはキメラやグリフィンなどギリシャ神話に登場する他の合成獣に似通った姿であり、一種の様式が確立していたことが窺えます。また、人間と動物を組み合わせた姿は、ケンタウロスやパーン、人魚などを連想させます。
神話に登場するスフィンクスは幼子を餌にするなど、人間に危害を加える恐ろしい怪獣と見做されていました。
最もよく知られた英雄オイディプスの神話では、スフィンクスはテーバイ近くのピキオン山に棲み、山を越えようとする者になぞなぞを出して、解けない者を食い殺してしまう怪獣とされました。
オイディプスはスフィンクスから問われた「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足になり、足の数が多いほど弱いものは何か」という出題に「人間 (*幼児⇒成人⇒杖をつく老人)」と答え、スフィンクスを打ち負かすことに成功したと伝えられます。
こうした印象のためか、古代ギリシャやローマでコインに表現された例は多くありませんでした。
しかし小アジア西部にはスフィンクスを守護獣と見做していた都市もあり、それらの都市ではコインのデザインに取り入れていました。そこに残されている姿は神話に忠実な女性像です。
キジコス 紀元前550年-紀元前450年 スターテル貨
キオス島 紀元前490年-紀元前435年 スターテル銀貨
レスボス島 紀元前412年-紀元前378年頃 1/6スターテル貨
古代ローマ 紀元前46年 デナリウス銀貨
ローマのコインに表現されたスフィンクスも頭部は人間女性ですが、乳房がライオンと同じく腹部に複数あり、より動物に近い姿です。
イベリア カストゥロ 紀元前2世紀初頭 銅貨
ギリシャやローマとも交流があったイベリア(*現在のスペイン)のコインに表現されたスフィンクスは、帽子を被った男性像として表現されています。
翼の形状は麦穂のようになっており、独特な雰囲気を醸し出しています。
現在においてスフィンクスは世界中のコインに表現されていますが、やはりエジプト、ギザのスフィンクス像が用いられる場合が多く、古代ギリシャ・ローマ風の女性スフィンクスが登場する機会はほとんどありません。
エジプト 1986年 5ポンド銀貨
フランス 1998年 10フラン銀貨
「スフィンクス」は猫の品種名としても知られています。見た目や名前から古代エジプトが発祥と誤解されやすいですが、実際にはカナダが原産地です。
この全身無毛の猫は1970年代に繁殖に成功し、新しい品種として認知されるようになりました。この特異な姿が、猫を神聖視した古代エジプトを連想させることや、座る姿勢がスフィンクス像に似ていたことから「スフィンクス」と名付けられたそうです。
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