こんにちは。
日々秋が深まる今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。だんだんと日の入りが早くなり、気温もぐっと下がっているように感じます。風邪などひかないよう、体調に気をつけて秋を楽しみたいですね。
今回は秋の夜長に相応しい一冊をご紹介します。「読書の秋」にぴったりな歴史物語です。
古代マケドニアの王妃テッサロニケ
「テッサロニキ」の町の名の由来になったアレクサンドロス大王の妹
著者:竹中愛語
出版社:パレード
発売日:2023年11月1日
※表紙をクリックするとAmazonの詳細ページにリンクします。
著者の竹中愛語様はお世話になっているお客様で、京都の大学で東洋史・古代ギリシャ史を研究されています。
以前 当ブログでご紹介した『彗星のごとく―アレクサンドロス大王遠征記―』(文芸社, 2019)、『テーバイの将軍エパミノンダスとペロピダスー古代ギリシア英雄伝』(幻冬舎, 2023)など、古代ギリシャ史を題材とした作品を多数執筆されています。
今回の主人公テッサロニケは、紀元前4世紀のマケドニア王国に生まれた実在の王女です。父親はフィリッポス2世、兄はアレクサンドロス大王という、アルゲアダイ王朝の輝かしい姫君として生まれながら、激動の歴史の渦に翻弄された女性でもありました。
本著ではテッサロニケの生涯を軸に、父フィリッポス2世と兄アレクサンドロス大王、養母オリュンピアスなどアルゲアダイ王家の人々と、夫となるカッサンドロスやその政敵であるアンティゴノス、デメトリオス、ポリュペルコンといった英傑たちの群像劇が描かれています。
宮廷内の愛憎と確執、大王亡き後の血塗られた勢力争いに巻き込まれるテッサロニケの苦悩が、巧みな人物表現と内面描写によって丁寧に描かれています。
この物語のもう一人の主人公ともいえるカッサンドロスは、歴史上では主君であるアルゲアダイ王家を悉く排除、断絶させた上、テッサロニケを無理やり娶ってマケドニア王位を得た簒奪者として記されています。
本著では権力のため冷徹に策謀をめぐらす軍人である一方、妻であるテッサロニケにも愛情を向け、それによって彼女の人生に明るい兆しをもたらす良き夫としても描かれています。
また、学友であるアレクサンドロス大王や父アンティパトロスに対して複雑な感情を抱き、生涯その影を意識して苦悩し続ける人間的な一面もリアルに描かれています。
カッサンドロスの治世下に発行された銅貨
カッサンドロスとテッサロニケが過ごしたペラ王宮での日々は、テッサロニケがようやく家庭生活を持つことができた反面、カッサンドロスにとっては自身の権力を確立させるために奮闘する日々でもありました。本著内でのカッサンドロスはアレクサンドロス大王の家族を抹殺しながら、大王の神格化を推進する相反する行動をみせ、自身もその矛盾に苦悩し翻弄される姿が印象的です。
『アレクサンドロス大王のモザイク』
(イタリア・ナポリ国立考古学博物館所蔵)
ポンペイから出土したこのモザイク画は、アレクサンドロス大王とアケメネス朝ペルシアのダレイオス3世が会戦した「イッソスの戦い」を表現したものとされます。原画はカッサンドロスがペラの王宮に飾るため、画家フィロクセノスに描かせた作品とされます。本著ではその製作過程も描写され、物語内で重要な役割を果たしています。
本著のタイトルにもあるように、テッサロニケの名は現在ギリシャの都市名「テッサロニキ」として残されています。カッサンドロスはマケドニア南部のエーゲ海に臨む地に交通の要衝となる都市を築き、そこに妻の名前を捧げました。アレクサンドロス大王の妹の名声を政治利用する反面、夫として愛する妻の名を永遠に留めたかったのかもしれません。
現在のテッサロニキ市風景
(Wikipediaより)
テッサロニキ市紋章
アレクサンドロス大王のテトラドラクマ銀貨がそのまま採用されています。
しかし基となるコインはカッサンドロスではなく、トラキアの王リュシマコスが発行したタイプです。
テッサロニキは2300年の歳月が経た今もその名で呼ばれ続け、現在もギリシャ第二の都市として栄えています。古代ギリシャにおいて実在の女性の名が都市名になることは珍しく、またそのまま存続している稀有な例でもあります。
アレクサンドロス大王の妹に生まれた故に波乱の生涯を送ることになったテッサロニケ。運命に翻弄され続けた彼女の生涯と、それを取り巻くヘレニズム期の英雄たちが織り成す物語です。
アレクサンドロス大王亡き後の混乱を活写した作品は少なく、日本語で書かれた書籍としても大変貴重です。ヘレニズム諸王朝の成立初期を知る上でも非常に参考になります。
本著は11月1日よりAmazonから発売予定。読書の秋におススメの一冊です。
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