首から上の部分がかけていながら伸びやかな翼が魅力的な優雅な女性像…パリはルーブル美術館にある『サモトラケのニケ象』はご存じでしょう。紀元前
190年頃の作品だといわれます。
このコインのニケ象はもう少し古く、ちゃんと頭も付いています。勝利の女神とされるニケは、オリンポスの神々と祖先を同じくしながらもやがて系統が分かれて対立したタイタン族の出身です。
両者の間で戦争がおこったとき、彼女はオリンポス側についたのでオリンポスの神々は勝利しました。
ニケは神話にはあまり登場しませんが、コインにはよく描かれます。ゼウスの傍に描かれたり、船の舳先に描かれたりします。翼があることで彼女だとわかりますが、他の女神と比べて長いローブを纏っていることが多いようです。手に持った冠で勝利者を称えます。都市を守る女神アテナと共に描かれる事もあります。ローマ名の『ヴィクトリー』で知られスポーツメーカーの『ナイキ』はこのニケ（
NIKE）が由来です。
このコインを発行したエーゲ海の東の端、小アジアのカリア地方は、ロードス島やコス島など、無人島を含めて
40ほどの島がひしめきドデカネス諸島と呼ばれます。今は観光客でにぎわうロードス島・コス島は、ギリシャの衰退以降、ローマ・ビザンティン・トルコ・聖ヨハネ騎士団・再びトルコ・イタリアなど、次々に異国支配が続きました。さらにトルコに近いスポラデス諸島は数学者ピタゴラスと、寓話作者イソップが生まれた地です。前出のサモトラケのニケ象もこの諸島の一つで発掘され、ニケに対する信仰の厚い地域であったと考えられます。コインの裏面にはブドウが描かれていますが、素晴らしい果実の産地でもあります。サモス島の『サミアンワイン』はこの島でしか飲むことができず、秋口にはヨーロッパから多くのワイン通がこの島を訪れます。
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