愛と美の女神アフロディーテの子エロスが、翼のついた背中を丸めて自分の弓矢を磨いています。たった今、大きな毒蛇を退治して得意になって帰ってきたアポロンがまだ小さいエロスの道具をからかいました。エロスは以下って、二本の矢を取り出しました。
エロスの持つ菌の矢で胸を射られた者は、自分の瞳に写った人を恋焦がれるようになる、しかし鉛の矢で要られた者は、どうあっても恋を受け入れられなくなるのです。さてエロスは、川の神の娘でダフネーという美しい乙女に、この鉛の矢を打ちました。ダフネーは、狩りの女神アルテミスのように一生結婚などせず、鹿を追って暮らしたい、と願うようになりました。その美貌ゆえあまたの男性が彼女に求婚しましたが、それに目もくれず、髪も短く刈り、膝よりも短い少年の衣装で野山を駆け回っていました。
一方、野を散策していたアポロンの胸にエロスの金の矢が射込まれました。その次の瞬間、アポロンの目の前をダフネーが走り去ったのです。言わずもがな、アポロンの心はダフネーのしなやかな美しさに魅せられて、あの颯爽とした姿にすばらしい衣装を着せ、髪を結わせて、ぜひ結婚したいと願いました。アポロンはオリンポス一の俊足でダフネーを追い、彼女を呼び止めようとします。一方ダフネーが振り向くと、そこには大変な美少年が彼女を追いかけてきます。ダフネーは男性にえもいわれぬ嫌悪感をいだいて、恐れをなして逃げ出します。アポロンは、自分がオリンポスの神であること、敵ではなくあなたを恋していると呼びかけます。
「どうか待っておくれ!あなたを追いながらも、哀れな自分は、あなたが転びやしないか、いばらの棘が罪もない足を傷めないかと心配している、どうかゆっくり走りなさい、私ももっとゆっくりと追うから…軽率な可愛い娘よ、私が誰かたずねるがよい。私はかのアポロン、医術を発明し、音楽と詩をつかさどり、弓矢の名手だ…。」
ダフネーはこれを聞き、逃げおおせることはできないと絶望しながらも、必死で走り続けます。ついに、森を抜け川辺にいたって、アポロンの息が娘の神に届こうとしたとき、ダフネーは川の神である自分の父に懇願します。人に愛されるこの苦しさが自分の美貌のせいなら、どうかそれを奪って開放してくれ…と。
するとダフネーのむねは樹皮に包まれ、しなやかな脚は根に、腕は枝に、髪は葉に変わりました。しかし、なお輝くような美しさが残ったといいます。アポロンは、その樹を抱き枝にくちづけをしました。しかし、その樹はなおも梢を揺らし避けようとしました。アポロンはこの樹に語りかけます。
「月桂樹よ。どうかこれからは私の樹になり、私の髪も竪琴も、おまえの葉で飾っておくれ。そして音楽や詩や医術に秀でる人の冠となりその栄光を表すように。そしておまえも常に美しく緑の葉を装うように…。」
まだ鼓動の残っていた月桂樹は、しなやかに枝を揺らし小さく頷いたということです。
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