間が空いてしまいましたが、今週で第二回をむかえます「金の魅力と魔力」・・・
今回は、アラスカの金鉱山の人集めについて「朝日新聞」の特集から書いていきます。
『アラスカの金鉱山の人集め』
『朝日新聞 Globe 3月15日号』
冬のアラスカは夜明けが遅い。ようやく空が明るくなった午前10時、案内役のポール・ギブソンが運転する農耕用トラクターに乗り込み、金鉱石の採掘現場に向かった。でこぼこの激しい坑道には「これが一番」という。外気は零下30度。暖気が送られている坑内でも零下10度だ。
米アラスカ州フェアバンクスから東へ150キロ。北極圏まで230キロのところにあるポゴ鉱山を、1月下旬に訪ねた。日本の住友金属鉱山が操業する金山だ。
「しっかりつかまって」。ギブソンの声がとぶと傾斜が40度近い急坂にさしかかった。坑道はらせん状に地下に降りていく。幾重にも枝分かれしていて、地下都市に迷い込んだ気分になる。
「ガガガガガ」という音が響いてきた。巨大な掘削機からアームが伸び、その先のドリルが岩を削っている。耳栓がないと耐えられない轟音(ごうおん)だ。
黒い岩の中に、石英の筋が白く見える。金はそこに含まれているという。
岩盤に奥行き4.5メートルの穴を70本ほど開け、計450キロの爆薬を仕掛ける。それを1度に爆発させ、岩盤を50センチ四方ぐらいの鉱石に砕く。1回の発破で採れる鉱石は250~500トン。ダイナミックな作業だ。坑道内に転がっていた野球ボールほどの鉱石を手にとり、石英の部分にヘッドランプを当ててみた。だが、金色には輝かない。金は鉱石1トンあたり平均14グラム程度しか含まれず、肉眼では見えないそうだ。
地上に運んだ鉱石は、破砕機で直径50~60ミクロンの粒にし、遠心分離器や薬品を使って金をより分ける。純度を94%までに高めた重さ30キロの塊にして米本土に出荷され、そこでさらに製錬されて純金になる。ポゴで1日に掘り出す鉱石は約2500トン。純金にすると約35キロで、最近の価格で計算すれば約1.5億円分だ。
この鉱山の操業が始まったのは2006年。金価格はその後も上がり続け、いまでは当時の3倍になった。
経済成長を続ける新興国を中心にアクセサリーや投資対象として買われる金が増えた。リーマンショック後に世界的な経済危機になると、今度はドルやユーロの価値が下がるとの予想が「安全資産」としての金買いの理由にされてきた。
ポゴ鉱山の社員食堂にある大きなテレビの前には、経済ニュースを食い入るように見つめる社員の姿が目についた。世界経済の動きを映して動く金価格が自分たちの実入りに直結するからだ。
ここでは、金価格に連動した「ゴールドボーナス」を社員に払う仕組みをとっている。金価格が一定額を超すと、上回った分に比例する係数を賃金にかけた額をボーナスとして払う。
職種や地位にかかわらず、四半期ごとに支給し「最近の金価格だと全員が毎年100万円以上もらっている」という。ある社員は「ネットでも毎日金価格をチェックしているよ」と話した。
社員数は現在約310人。日本人は9人で、大半が米国人だが、米国の永住権を持つフィリピン人やプエルトリコ人、ラオス人らもいる。家族のもとに帰れるのは週末だけで、敷地内の宿舎で1カ月近くも寝泊まりする社員もいる。
トラブルを避けるため飲酒は厳禁で、楽しみは食事ぐらい。人事担当のトーマス・ブロコウは「米本土より25%多めに報酬を出さないと、まず働きに来てくれない」という。いったん働きだしてもフル生産に必要な人数がなかなか定着しない。そこで始めたのがゴールドボーナスだった。
ボーナスを含めると社員の平均年収は16万ドル(約1300万円)。操業を始めた06年のほぼ倍に増えた。最近では離職率も減ってきているという。
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