こんにちは。
1月も終わりに近づいてきました。
お正月気分はあっという間ですが、寒さはまだまだ続きそうです。
今年は「丑年」ということで、古代ギリシャ・ローマ時代のコインに表現された牛たちをご紹介します。
世界中で牛は古くから狩猟の対象になり、やがて家畜化されて人間社会には欠かせない動物になりました。肉や牛乳などのたんぱく質を得るだけでなく、畑を耕したり車を牽いたりするための労働力としても重宝されてきました。
多くのものを産み出す牛は経済動物として取引され、貨幣経済が発達する以前の社会では財産そのものとして認識されていました。
世界最初の銀貨とされるリディアのコインにも、ライオンと対峙する牛が表現されています。ライオンは王の権威を示しているのに対し、牛は国土の肥沃さや富を象徴していると考えられています。
リディア サルデス BC545-BC520 シグロス(1/2スターテル)銀貨
古代ギリシャでも牛は重要視され、儀式での神々への供物として用いられた他、ミノタウロスをはじめゼウス神、ポセイドン神、アポロ神やヘルメス神など、数多くの神話にも登場します。
以下では古代ギリシャの各地で発行された、牛のコインをご紹介します。
【イタリア半島~シチリア島】
ルカニア シバリス BC525-BC510 スターテル銀貨
ルカニア トゥリオイ BC443-BC400 ノモス銀貨
イタリア半島に入植したギリシャ人たちは肥沃な土地を開拓し、豊かな穀倉地帯に発展させました。その過程で牛は開墾に必要な労働力とされ、肉はエネルギー源にされました。
ルカニア ポセイドニア BC470-BC445 スターテル銀貨
牛はポセイドン神の聖獣とされ、儀式での供物としても牛が捧げられていました。
カンパニア ネアポリス BC320-BC275 スターテル銀貨
シチリア島 ゲラ BC420-BC415 テトラドラクマ銀貨
古代ギリシャでは川の神を「男性の顔をした牛」として表現する例が多く見られます。スフィンクスや日本の妖怪「件」とよく似た姿であり、動物と人間が合成した珍しい表現です。
【ギリシャ北部】
テッサリア ラリッサ BC370-BC360 ドラクマ銀貨
テッサリア ファルカドン BC440-BC400 ヘミドラクマ銀貨
テッサリア平原は古くから牧畜が行われ、牛を追うために馬の飼育も盛んに行われました。コインには牛を捕まえるテッサロス(*テッサリアの名祖とされる伝説上の王)が表現されています。
イリュリア デュラキウム BC340-BC280 スターテル銀貨
マケドニア アカントス BC470-BC390 テトロボル銀貨
ポーキス BC354-BC352 トリオボル銀貨
アポロ神は牧畜の神でもあり、牛の世話をしていたところヘルメス神に50頭の牛を盗まれてしまった神話が語られました。この時、ヘルメスは見事な竪琴を作成してアポロに贈り、許しを得たとされています。コインにはアポロ神の肖像の横に、小さな竪琴が確認できます。
【黒海】
トラキア ビザンティオン BC340-BC320 ドラクマ銀貨
ビザンティオンが位置するボスポラス海峡の名は「牝牛の渡渉」を意味し、かつてゼウス神が不倫相手のイオを牝牛に変身させた際、正妻のヘラ女神が虻を放ってこれを追わせ、海峡を渡らせた神話に由来しています。
コインにはイルカに乗るような姿で前足を上げる牝牛が表現され、海峡を渡るイオの姿に重ねられています。
ボスポロス王国 パンティカパイオン BC325-BC310 銅貨
【小アジア】
レスボス島 ミュティレネ BC521-BC478 ヘクテ貨
レスボス島 ミュティレネ BC454-BC427 ヘクテ貨
キリキア タルソス BC361-BC334 スターテル銀貨
小アジアのリディアから始まったコインの文化は、その後各地へと伝播しましたが、小アジアでは牛とライオンの組み合わせが様式を変えながら多く表現されました。
【オリエント~インド】
バクトリア王国 BC180-BC160 ドラクマ銀貨
インド・スキタイ王国 BC58-BC12 ウニット銅貨
アレクサンドロス3世による東方遠征後、ギリシャ文化を継承した諸王国によってオリエント~インドでギリシャ風のコインが発行されました。そこにはインドで広く見られる「コブウシ」が表現されたものが多く見られます。
古代インダス文明の時代からコブウシは南アジアで広く飼育され、バラモン教やヒンドゥー教では神の使いとして神聖視されてきました。ヘレニズム時代に生み出されたこれらのコインは、外来のギリシャ文化と現地のオリエント文化が巧みに融合した例といえるでしょう。
次回は古代の牛コイン第二弾【古代ローマ編】をご紹介します。
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