こんにちは。
毎日暑い陽気が続いていますね。6月後半の猛暑よりはましですが、それでも蒸し暑さは身体に堪えます。
昨今はコロナの感染者数が再び増え始めている様子で、気が休まる暇が全くありません。今回は社会活動を極力止めないそうですが、そうなると必然的に感染は拡大していくので、これまでとは異なる対応が必要です。
コロナと暑さ、両方の対策を心掛けて、自分の身は自分で守る他ないようです。今年の夏も何とか健康で過ごしたいものです。
今回は古代ギリシャで造られた鳩(ハト)のコインをご紹介します。
シキュオーン BC330-BC280 ヘミドラクマ銀貨
表面には神話に登場する合成獣キマイラ(キメラ)、裏面には滑空するハトが表現された印象深いデザイン。ギリシャコインの中でもコレクションとして、またジュエリーとしても人気がある一種です。
キマイラはライオンの身体に蛇の尻尾を持ち、肩から山羊の頭が生えた奇妙な姿です。下部には発行都市シキュオーンを示す「ΣI」銘が配されています。
このコインが造られたのはペロポネソス半島北部の都市国家シキュオーン、現在のギリシャ,シキオナにあたる地域です。(*地図の左上)
シキュオーンはコリント湾から3kmほど離れた小高い台地の上に建設され、周辺地域にはオリーヴ畑や果樹園が点在していました。
長らく専制国家体制が続いていましたが、紀元前556年にスパルタが統治者を追放すると民主政に移行し、以降はスパルタや近隣のコリントと同盟関係になりました。
シキュオーンの劇場遺跡
神殿跡
古代ギリシャにおけるシキュオーンは芸術の都であり、数多くの優れた芸術家たちを輩出したことでその名が広く知られていました。シキュオーンの職人が手掛けた陶器や青銅器、木器は遠くエトルリアにまで輸出されたことから、当時より高く評価されていたことが伺えます。また芸術家たちを養成する美術学校も存在し、ギリシャ各地から彫刻家・画家志望の若者たちが集いました。後にアレキサンダー大王のお抱え絵師となるアペレスもシキュオーンで修業した画家の一人でした。
この地で発行されたコインもまた、現在の感性から見ても優れたデザインであることが分かります。
空を飛ぶハトは下から見上げた時の姿そのままであり、極めて写実性の高い表現です。また丸い形状の外枠に合うような構図は収まりがよく、現代の我々が目にしても違和感の無い、デザインとしての完成度も高い意匠です。
発行された年代や型によって細部が異なるのは、当時の彫刻師たちが個性を発揮した、技術の見せ所だったのかもしれません。
BC340-BC335 ドラクマ銀貨
BC100-BC60 ヘミドラクマ(=1/2ドラクマ)銀貨
この姿はシキュオーン(Σικυῶνος)の頭文字である「Σ」を見立てたものと言われ、翼の動きや身体の向きも一致しています。シキュオーンではこのハトが象徴というように、コインには滑空するハトの姿が表現され続けました。
ギリシャ神話におけるハトは美女神アフロディーテの聖鳥であり、また帰巣本能から伝書鳩として飼育されていました。しかし神聖かつ身近な鳥でありながら、シキュオーン以外にハトを大きく取り上げたコインを発行した都市はありませんでした。
当時の人々はハトがデザインされたコインを手にすれば、一目でシキュオーンのコインであることが分かったと思われます。
BC330-BC280 ヘミドラクマ銀貨
BC330-BC280 ヘミドラクマ銀貨
BC100-BC60 ヘミドラクマ銀貨
「Σ」とは逆向きに飛ぶハトが表現された珍しいタイプ。嘴でヘビを咥える姿も他には無い表現です。
紀元前3世紀半ば以降、シキュオーンはコリントなどアカイア地方の諸都市から成る「アカイア同盟」に加盟し、統一規格の銀貨の発行・流通に伴って独自のコインは減少し続けました。紀元前1世紀に小さな単位の銀貨が再び発行されましたが、ギリシャを征服したローマの支配が強まるとついに造られなくなり、その後ハトのコインは流通から姿を消していきました。
アカイア同盟規格のヘミドラクマ銀貨 (BC196-BC146)
しかし2000年の時を経た今もなお、シキュオーンで発行されたコインは「芸術の都」に相応しい、優れた美術品として多くの人を魅了しています。
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