こんにちは。
毎日暑い日が続きますが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。
最近は集中豪雨や台風も増え、水害の心配も増えてきています。暑さが少しでも緩和されると良いのですが、外出のスケジュールも立てにくい時期ですね。涼しく過ごしやすい、秋晴れの日々が待ち遠しいです。
今回は中米グアテマラを象徴する鳥ケツァールのコインをご紹介します。
ケツァールは中米地域(=グアテマラ、ニカラグア、エルサルバドル、コスタリカ、ホンジュラス、パナマ)の山林に生息する鳥です。
紅と白、エメラルドグリーンのコントラストが美しい鮮やかな羽が特徴的で、かつてこの地に栄えたマヤ・アステカ文明では王や神官を象徴する羽飾りとして重宝されました。ケツァールは大気を司る神の化身とされ、その神々しさから崇拝の対象にもなっていました。
(wikipediaより)
キヌバネドリ科のケツァールは体長35cmほどですが、オスは長い尾羽を有しています。ケツァールの名は現地の古い言語で「大きく輝く尾羽」を意味し、尾羽まで含めると120cmほどの長さになります。優雅な尾羽をヒラヒラと靡かせながら天を舞う姿は、まさに神の鳥にふさわしい容姿です。一方で顔つきは小鳥らしいかわいらしさがあり、人々から長年愛される要素となっているようです。
また人間による飼育が大変難しく、飼育展示している動物園は世界的にもほとんどありません。
そして「捕らえると死んでしまう」という伝承から、近代に入ると何ものにも束縛されない「自由」の象徴として意味づけられるようになりました。
グアテマラ共和国はケツァールを「国鳥」として定め、国章の一部に取り入れています。
グアテマラ共和国の国章
書面にはグアテマラがスペインの植民地支配から独立した「1821年9月15日 自由」を意味するスペイン語銘が記されています。
グアテマラの位置
西北はメキシコ、東はベリーズ、ホンジュラス、エルサルバドルと接しています。面積は北海道と四国を合わせたほどですが、火山や湖、湿地帯や熱帯林などの豊かな自然と、温暖な気候に恵まれています。かつてはマヤ文明が栄えた地として知られ、ティカルのピラミッドをはじめ、数多くの古代遺跡も残されています。
1894年 1ペソ銀貨
グアテマラでは独立以降、スペイン統治時代のレアルやフランスフランと連動したペソ(5フラン=1ペソ)が通貨として導入されました。コインにはグアテマラの国章が大きく表現され、上にはケツァールの姿もありました。
第一次世界大戦を経て世界の金銀本位制が揺らいだため、1925年にグアテマラでは従来のペソを廃止し、新たな通貨を発行しました。新通貨単位はグアテマラの国鳥である「ケツァール (Quetzal)」の名がそのまま採用されました。
1ケツァール=100センタヴォとされ、当初はアメリカドルとほぼ等価に設定されていました。これはアメリカ資本によって国内経済を支配されていた当時のグアテマラの事情も大きく関係しています。
新通貨発行に伴い、コインのデザインも一新されました。従来の国章は変わりませんが、共通デザインとして通貨単位そのものであるケツァールがメインとして表現されるようになったのです。これがグアテマラを代表するコインとして世界的に知られる金貨・銀貨です。
1926年 20ケツァール金貨
表面には長い尾羽を垂らしたケツァールが表現されています。反対面の国章にも表現されていることから、両面共にケツァールが表現されていることになります。
※国章のケツァールは以前のタイプよりやや修整され、首の向きは右から左へ、長い尾羽は銃剣の背後から前へ変更されています。
柱の上にとまる優雅なケツァール、周囲部には新通貨発行の法的根拠を示す「LEY DE 26 DE NOVIEMBRE DE 1924 (=1924年11月26日法令)」銘が配されています。
柱に刻まれた「30 DE JUNIO DE 1871 (=1871年6月30日)」銘は内戦において自由主義派が勝利し、政権を樹立した記念日であり、自由の象徴であるケツァールと組み合わせて表現されています。なお、ケツァールが配された国章も1871年に制定されました。
この金貨は当時のアメリカの20ドル金貨と同じ金性90%、33.437gで造られています。製造はアメリカのフィラデルフィア造幣局が請け負いました。
このケツァール金貨は20ケツァール金貨、10ケツァール金貨、5ケツァール金貨が発行され、さらに1ケツァール銀貨、1/2ケツァール銀貨、1/4ケツァール銀貨、10センタヴォ銀貨、5センタヴォ銀貨にも柱のケツァールが共通して表現されていました。
大型銀貨の1ケツァール銀貨はその大きさから見事な風格がありますが、10,000枚製造後に7,000枚が回収・溶解されたため現存数は少なく、現在では貴重なコインの一種として高値で取引されています。
1926年 1/4ケツァール銀貨
銀貨の場合、初年号である1925年銘はアメリカのフィラデルフィア造幣局が請け負いましたが、1926年以降はロンドンの英国王立造幣局でも製造されました。ケツァールの表現はアメリカで製造されたものより線が太くなり、やや木彫り細工のような印象を受けます。銀貨はアメリカの銀品位90%と異なり、72%で製造されています。
1946年 1/4ケツァール銀貨
1946年以降はグアテマラ国内の造幣局が製造するようになりました。デザインや重量などは同じですが、圧印やリムがやや異なります。
1932年 5センタヴォ銀貨
1.6667g、15.5mmの極小さな銀貨。僅かなスペースの中に美しい羽のケツァールが微細に表現されています。
1950年代に入ると柱のケツァールを表現したシリーズはデザインが変更されました。しかし国章のケツァールは変わらず残され、通貨単位の「ケツァール」も維持され現在に至っています。現在でもグアテマラで発行されている紙幣にはすべての額面にケツァールの姿がデザインされています。
しかし本来のケツァールについては、宅地・農地の開発によって生息地が減少し、乱獲の影響もあり生息数を減らしているようです。人間の手による繁殖が難しいため、中米各国は自然保護区の管理を厳重にすることで数を増やそうと試みています。
美しさのみならず、自然の中でしか目にできないことから「見ると幸せが訪れる鳥」として観光資源にもなっているようで、結果的に自然保護区の維持にも役立っています。
神聖性や自由、幸福、環境保護、さらには通貨単位にいたるまで、人間たちに多くの意味を付与されてきたケツァール。今後も豊かな自然に守られながら、優雅にのびのびと舞い続けてくれると良いですね。
コンゴ民主共和国 2004年 5フラン白銅貨
世界の自然保護をテーマするシリーズとして発行されたカラーコイン
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