こんにちは。
12月に入り、すっかり師走らしくなってきましたね。今年も残すところあと僅かですが、体調には気を付けて頑張っていきましょう。
さて、今回はいつものシリーズとは少し趣向を変えた、コインの基礎知識に関する話題をお届けします。
今回ご紹介するのは、コイン収集に関しては欠かせない基礎知識、「コンディション(Condition : 状態、条件)」と「グレーディング(Grading : 等級付け)」に関する内容です。
外国コイン、特に日本も含めた「近代銭」の売買に関して、グレーディング(等級付け)というものは非常に重要な要素となります。
コインを鑑定・評価する上では、コインの種類による希少性に加え、個別のコインそのものが有するコンディション(条件)と、それに基づくグレーディング(等級付け)が、価格決定の決め手となります。
グレーディングの差一つで、コインの評価・価格は大きく変わります。
鋳造したばかりの、完全未使用の状態に近いコインほど高価になり、場合によっては並品(普通品)との差が数十倍になることもあります。
ちなみに、このグレーディングに際しては、コインの年代・希少性・型模様等は考慮されず、あくまでコイン本体のコンディションに基づく判断が必要になります。
一般的に、世界的なコインカタログである「近代世界コインのカタログ (R.S.ヨーマン)」や「Chester L.Krause&Clifford Mishler:Standard Catalog of World (KMカタログ)」等には、個々のコインに関するグレーディングと、それに伴う「目安」としての評価額が記載されています。
しかし、実はこれら世界的なカタログに記載されている基準であっても、世界的に統一された基準ではなく、国によって異なる基準と略語表記が使用されているのです。
特にドイツやフランス等は、自国の言語に基づく略語表記を用いてグレーディングがなされる為、注意が必要となります。
また、同じ英語圏であっても英国と米国とでは、グレーディングに関して同じ略語表現を使用していたとしても、コンディションの評価の厳しさに関して、内包されるニュアンスに微妙なズレがある場合もあり、判断をより複雑なものにしています。
日本の場合は、「完全未使用」 「未使用」 「極美品」 「美品」 「普通」 「やや劣」 「劣」といった表現でグレーディングがなされていますが、最近では外国コインに関して英米系の状態表示を用いることが多くなりました。
以下は外国コインのグレーディングに用いられる英米系の略語表記・基準と、それに相当する日本語の表記です。
この基準は、コイン収集が盛んなアメリカのA.N.A(アメリカ貨幣協会)が公式に定めた「A.N.A公式等級付け基準」(Official A.N.A Graging Standards for United States Coins)に基づいて説明されています。
それらは一般的に「MS」や「Mint State」貨幣等級方式の名でも呼ばれています。(MSとは、未使用コインの表示に用いられることもあります。)
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◎ UNC : Uncirculated ― 未使用
鋳造直後の状態を保持し、30倍の顕微鏡でも肉眼で確認できる摩耗、または流通した形跡がない。この場合、鋳造直後についた多少の袋ずれ(バッグマーク:Bagmark)による微かな傷は問題とならない。
傷や摩耗等、外傷が全く無い場合は、「完全未使用」と表される場合もある。
フランス、イタリア、オランダ、ブラジル等の基準では「FDC」(Fleur de Coin : フランス語で「コインの華」)と表記され、日本においても用いられることがある。
特別な鋳造工程を経て造られる「プルーフコイン」とは異なる為、その点にも注意が必要である。
尚、コイン上の傷を見る場合、「アジャストマーク」に注意しなければならない。
アジャストマークとは、コイン(主に大型銀貨)の鋳造過程で量目超過が発生した場合、それを微調整する為に表面を意図的に削った痕のことである。アジャストマークはフランスのエキュ銀貨をはじめ、南米諸国等、様々な時代・国・地域のコインにみられる。
一見やすり痕のようにも見えるが、市場流通過程で付いた傷とは区別される為、注意が必要である。
◎AU : Almost Uncirculated ―準未使用
コイン上の全ての細部が肉眼で確認できる状態。
コイン上の最も盛り上がっている部分のみが一部摩耗しており、肖像の毛髪部分の摩耗はごくわずかである。
鋳造直後の光沢がおおまかに見られる場合がある。しかし、わずかに流通した形跡が見て取れる状態である。
◎ XF or EF : Extremely Fine ― 極美品
流通の痕跡はあるが、状態としてはほぼ未使用に近いもの。
コインのデザインにおいて、本来の細部箇所の約95%が肉眼で確認可能な状態。
或いは、コイン上に細かいデザインがない場合は、コイン全体に僅かな摩耗がある状態を指す。
流通痕は明らかだが、コインの図柄の細部は十分に残っている状態である。
しかし、コインによっては、デザイン上のある特定の細部分の摩耗状態によって、コインそのもののグレーディングが決まる場合もある為、注意が必要である。
◎ VF : Very Fine ― 美品
流通の痕跡は見られるが、摩耗度合いは少なく、コイン本来のデザイン・銘字が美しいもの。
コインのデザインにおいて、本来の細部箇所の約75%が肉眼で確認可能な状態。
或いは、コイン上に細かいデザインがない場合は、コイン全体に「並み」の流通による摩耗がある状態を指す。
デザイン、銘字は明瞭だが、肖像の毛髪部分等、細部は摩耗している状態である。
尚、コインデザイン上のある特定の細部分を評価の基準とする場合は、本来の細部分デザインの約66%が残っている場合を指す。
◎ F : Fine ― 並品、普通
コインのデザインにおいて、本来の細部箇所の約50%が肉眼で確認可能な状態。
或いは、コイン上に細かいデザインがない場合は、コイン全体にわたって「重度」の摩耗がある状態を指す。
デザインと銘字は明瞭に読み取ることが可能だが、肖像の毛髪部分等、細部はほとんど摩耗している状態である。流通による傷や、汚れも目立つ。
コインデザイン上のある特定の細部分を評価の基準とする場合は、本来の細部分デザインの残っている割合が50%以下である場合を指す。
◎ VG : VeryGood ― やや劣
コインのデザインにおいて、本来の細部箇所の約25%が肉眼で確認可能な状態。
コイン全体にわたってかなり重度の摩耗がみられる。肖像の皺や耳の部分等、細部はほぼ摩耗し、銘字も摩耗している。
◎ G : Good ― 劣
コインのデザインに関しては、はっきりとした輪郭が確認できるが、肖像細部はほぼ摩耗し、コイン全体も大幅な摩耗がある状態。
大まかな細部の一部は、肉眼で確認できるが、完全につぶれて読み取れなくなっている銘字もある。
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尚、鋳造時のプレスの強弱、部分的なプレスの度合い、損傷や腐食、色合いの状態、液体洗浄または研磨等のコイン個別の情報は、上記のグレードと共に明示する必要があります。
また、表面は「EF」で裏面は「VF」である場合等、コインの表裏で状態評価が異なる場合があります。
その際には、「EF/VF」という表示方法を用いることもあります。
このように国によって違えど、グレーディングに関する一応の尺度は存在します。
しかし、このように基準があったとしても、それを用いて判断するのは、あくまで「鑑定者個人」であり、そこにはもちろん鑑定者個人の「主観」が作用します。
特に、グレーディングの基準となりうる中間のグレーディング(FやVF)の判断は難しく、最終的には鑑定者それぞれの主観に依る処が大きいのです。
前述したA.N.Aは、その問題に対処する為、1977年により厳密に細分化した評価基準を定めました。
日本でも、各評価をより細分化して表示する方法として、「VF+」や「VF-」といった、プラスとマイナスを用いて評価を細分化・厳密化する傾向があります。
このように、近代の外国コインを扱う上で外せないグレーディングは、ある程度の評価基準が設けられていても、個々人の価値観・コイン観を考慮に入れて鑑みることが必要となります。
コイン収集歴が長く、様々なコインを実際に目にすることが出来れば、自ずと各々の「コイン観」が出来上がり、それに基づく価値判断も可能になると思われます。
その際には、今回ご紹介したグレーディングに関する知識も、一つの参考になると思います。
本日は以上となります。
次回も宜しくお願い致します。
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