こんにちは。
だんだんと春らしくなってきました。まだ強風と乾燥は続いていますが、日差しが暖かく感じる日も多くなってきています。
さて、最近ブログのほうをすっかり疎かにしておりますが、忘れないうちに何かしら更新していきたいと思います。
今回は、昨今のローマコイン市場に関して。
前回もご紹介しましたが、最近は世界的なコイン投資の広まりによって、古代ギリシャ・ローマコインの品薄・値上がりが進んでいます。
特にアメリカのコイン市場が顕著なのですが、古代コインの供給地であるヨーロッパの情勢も変わりつつあるようです。
これにはユーロ危機以降、ギリシャやイタリアからの古代出土品の移動が、厳しく制限されはじめていることも背景に有るようです。
これまで、イタリアやギリシャの遺跡から出土したコインや芸術品は、アンダーグラウンドにドイツ、フランス、イギリス、アメリカなどの大手市場に流されることがあり、一つの重要な供給源にもなっていたのです。
しかし、アメリカやEUでは歴史的遺物を保護する動きが政府レベルで進められ、その重要性が取り上げられるようになりました。特にEUでは、たとえ域内であっても入手ルートがはっきりと分かるものでなければ出土国へ返還するべきとして、取り締まりも厳しくなっています。ギリシャもイタリアも経済的に厳しい状態が続いている為、自国の歴史的遺産を水面下で動かされることに敏感になっているのかもしれません。
この両国は財政難から自分達で徹底的取締りを出来なくとも、EUに働きかけて加盟国各国に取り締まりを求めることはできます。
その為、古代コインをはじめとする古代芸術品の水面下での供給は一気に萎えてしまい、現在の品不足を招いたのでは、との見方もされています。
しかし、激しい内戦状態が続くシリアやイラクなどからは、トルコを経由して古代のコイン(パルティアやフェニキア、ローマ帝国属州時代のもの)や、その他の出土品が今後大量流出する可能性もあります。コインの市況は、激動する国際情勢に大きく左右されているといえるでしょう。
このところそうした品薄の情勢を象徴しているのが「ローマ神のデナリウス銀貨」です。
共和政時代の古代ローマコイン代表格
「ローマ神のデナリウス」
(写真はBC150年発行のもの)
このローマ神は、都市国家ローマの守護女神とされ、ローマ市そのものを象徴する神でした。
翼付き兜を被った勇ましい姿で表現されるのが常でしたが、イヤリングやネックレスなどの装飾品も身に付けており、女性らしさも併せ持った美女神として表現されました。
共和政時代のローマでは、このローマ神を表現したデナリウス銀貨が100年以上の長きにわたって造られ続けました。尚、左下に刻まれた「X」の銘は、当時のデナリウス銀貨1枚がアス銅貨10枚に相当したことを示しています。もともと「デナリウス」の呼称は、「10」の形容詞からとられた貨幣単位でした。
紀元前2世紀後半にアス銅貨10枚⇒16枚へ改正されてもこの「デナリウス」の呼称は残り、ローマ帝国が滅ぶ直前まで、長らくローマの基軸通貨単位でした。(※X銘からXVIの銘に変更されたローマ神コインもみられます)
さて、長く発行され続けたローマ神のコインは、時の通貨発行責任者の意向で裏面が変更されたことでバリエーションに富みますが、特異で興味深いものを除けば、現存数が多い、手に入れやすいありふれた古代ローマコインとして人気がありました。
ところが、最近はこのローマコインを見かける機会が減り、海外オークションの出品数も以前と比べて減少しているように感じます。無論、入札参加者は増えても出品数が少ないのですから、出品されたローマ神のコインの値段はどんどん上がってしまいます。
こうした状況は、ユリウス・カエサルの軍団が発行した「象コイン」に似ています。このコインは短期間に発行されたものとはいえ、現存数が多く、よく見かけられたコインだったはずですが、近年は常に高値で取引されるコインになってしまいました。
しかしローマ神のコインは、初めて古代ローマのコインを買われる方が、最初に手にすることの多い代表的ローマコインです。毎回オークションでは入札しているのですが、その度に高値で落札されてしまい、なかなか入荷し難たくなっているのが現状です。
ローマコインは本来、大型の銀貨があまりなく、基軸とされたのは直径20mm前後、重さ3g前後の小さなデナリウス銀貨でした。
従来、デナリウス銀貨は発行の歴史が長く、バリエーションと現存数が豊富であることから、数を揃えて楽しむことが出来ました。(ガルバやオットー、ペルティナクスなど、在位3ヶ月程の短命皇帝は除きます。)
その為、長いローマ史を手にとって観賞できる、手軽な古代遺物として愛されたのです。
アウレウス金貨やソリダス金貨は、絶対数が限られていて、かつ人気があって昔から高価でした。
逆に、セステルティウス銅貨は発行数は格段に多い分、卑金属のため2000年近い経年変化に耐えられないこと、一般市民の生活の中で広く流通したことで退蔵されず、磨耗や消費が盛んに行われたため、美しく残っているものは特に高値で取引されました。
しかし、エジプト属州やシリア属州で発行された大型のテトラドラクマ銀貨(※ギリシャ系地域に合わせてドラクマ幣制を採用。Billonと呼ばれる低品位銀で造られた。)や、カラカラ帝以降、軍人皇帝時代に盛んに発行されたアントニニアヌス貨(※デナリウス2枚に相当するとされたが、実際には銅貨に銀メッキを施した粗悪なコインだった。デナリウスと異なり直径が大きく、皇帝は光の冠を戴いている。)は、比較的安価に取引され、現在でもその傾向はあまり変わっていないように思われます。
またデナリウス銀貨であっても、五賢帝時代以降、つまりセウェルス朝時代(2世紀末~3世紀前半)のコインは状態が良好で素晴らしいものが多いのですが、やはり絶対数が多いためなのか、オークションでも比較的安く手に入るように思います。
欲しいときにいつでも、好きなタイミングで入荷できるコインであった「ローマ神のデナリウス」は、今やある時に入荷しておかねばならないコインに出世してしまったようです。時勢の急激な変化を感じざるを得ません。
こうした古代ギリシャ・ローマコインへの過熱は何時まで続くのか、これからも情勢を見守っていきたいと思います。
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