お久しぶりです。
11月に入り、段々と寒い日が多くなってきました。
ここのところ更新が滞っておりましたので、久々に何か記事を書いてきたいと思います。
今回は「古代ローマの金貨」について。
というのも、当店のホームページをご覧になっている方もお気づきかと思いますが、最近ローマの金貨がめっきり少なくなってしまいました。
最近はオークションでローマ金貨がなかなか出ず、あっても出品点数が少ないため入札が集中してしまい、高額になってしまうからです。
つい昨年までは初代皇帝アウグストゥスや、二代皇帝ティベリウス、「暴君」ネロ、五賢帝のトラヤヌスやハドリアヌス、アントニヌス・ピウスなど、名の知れたローマ皇帝のアウレウス金貨が100万円前後で手に入りました。
もちろん際立って状態の良いものは100万円を越しますが、あまりひどくないもの、鑑賞に堪えうるレベルのものであれば、100万円以内で入手可能でした。
しかしなぜか最近は出物が少なくなってしまい、オークションに出てきても状態が悪かったり、スタート値が高かったりします。
「金」という材質は不変と云われますが、残念ながら「柔かい」という性質を併せ持っているため、細かいレリーフが潰されやすくなります。そのため本来は少しでも状態良く残っているものは貴重なのです。
2000年近い年月を経ているので当然なのかもしれません。
しかし、これらローマ時代の金貨は2000年間「通貨」として人から人の手に渡ったものではないはずです。
何しろ初期のものほど純度の高い金で造られたアウレウス金貨は、発行当時から非常に価値が高く、一般市民ではなく貴族階級や騎士階級、大商人や大地主のような人々が所有するコインでした。
彼らは主に蓄財用として金貨を貯め置いたため、後世にまとまって出土することが多いのです。
残念ながらコイン収集家は厳密な考古学者ではないので、コインのデザインや造幣都市を気にしても「出土場所」はあまり気にしません。
そのためまとまって出土した金貨もばら売りされ、富裕な収集家の多い都市や外国に売られていきました。それが今のドイツやフランス、イギリス、アメリカでした。
ローマコインがギリシャコインと異なる点は、時間軸で系統立てて集められることです。
歴代ローマ皇帝の金貨を並べれば、立派な「古代ローマ帝国史」の展示キャビネットが出来上がります。大英博物館にも負けない歴史的に貴重なコレクションを、個人でも所有することができるのです。
その為、芸術的な美しさが評価されるギリシャ時代の金貨以上に、歴史的価値、収集家熱を刺激するのはローマの金貨といえます。
無論ギリシャ時代の金貨はローマ以上に古いため、状態の良い物や珍しいデザインのものは高く評価されています。ギリシャコインはデザインにバラエティが富んでおり、その歴史の古さから世界中に根強い収集家層があります。そうした人々はコインの「美しさ」を何よりも大切にするので、価値評価が将来的に下がることは考えにくいと思います。
しかしローマコインの場合、状態やデザインに加えて「皇帝」の価値も加味されてきます。
コンモドゥス帝のアウレウス金貨
自らを「ローマのヘラクレス」と称した暴君コンモドゥスは、ヘラクレスと同じく獅子の毛皮を被った肖像を刻ませ、裏面には武器コレクションの一覧を披露した。
最強を誇示した皇帝自身は暗殺という末路を辿ったが、彼の誇大妄想ぶりを後世に伝えるこの金貨は大切にされ、現在では超貴重なローマコインのひとつ。
ここでの「皇帝の価値」とは、皇帝自身の人気や歴史的評価以上に、「在位期間」「特定デザインの物語性」など、コインの希少性に直結する問題です。
最初に説明したアウグストゥス、ティベリウス、ネロ、五賢帝の金貨が比較的手に入りやすかったのは、「在位期間が比較的長かった」という要素があります。
ローマ皇帝は即位時に、支持を表明した兵士達に恩賞金を与えることがあり、そこで最初に自身の金貨を造らせたと考えられています。しかし在位期間が長い皇帝は、その間の財政出動のために金貨を発行しました。安定した時代だったこともあり、比較的多く金貨も発行され、金の純度も高かったので後世のローマ人も大切に貯め置いていました。
しかし在位期間が短い皇帝や、即位直後にあっさり葬られてしまった皇帝の金貨は、皇帝の実績が乏しくても高価になります。
なぜならローマ金貨を系統立てて集めている人たちは、途中で穴があいてしまうのを嫌がるからです。他の皇帝が並んでいる中で、一つだけ空白があると気になってしまい、資金に余裕がある人は「いくらでも良いから欲しい」という気持ちになってしまいます。何かをコレクションする人には共通の心理ですが、この「系統立てて集めたい」「一つだけでは物足りない」という心理が、古代ローマコインの需要を押し上げています。
また上に示したコンモドゥス帝の金貨も、暴君コンモドゥスの数々の狂乱エピソードを体現するかのような金貨であり、とても人気があります。
しかしなぜ最近になって、ローマ金貨が市場に出にくくなっているのでしょうか?
ひとつは出土による新たな供給が難しくなっていることがあります。
開発や遺跡の調査進展によって、新しい出土は少なくなり、たとえ出てきてもニュースに取り上げられて国の所有物になってしまいます。こっそり販売しようとしても、EU各国では古代遺物の売買が年々厳しく監視されているため、難しくなっています。
そもそも金貨は銅貨や銀貨に比べて発行数自体が少なく、そのため現物自体も希少性が高いのです。
もう一つは、純度の高い金貨を大切に壺の中に貯め置いた、古代ローマ人たちと同じ理由「将来への不安」があります。
日本でも数年前からコイン投資が注目され、特定のコインは年々値上がりしましたが、それもお金を現物に代えておきたいという危機感の表れでした。
特に今年は世界中が騒がしくなり、来年以降の先行きも不透明になっています。欧米ではその雰囲気が特に強いのか、資産性の高い「モノ」が注目されています。希少性があり、収集家人口も多く、その価値が認識されている古代ギリシャやローマの金貨はその条件に当てはまるのでしょう。
上は4世紀末、アルカディウス帝時代のソリダス金貨です。この当時、日本ではちょうど古墳が盛んに造営されていた「古墳時代」にあたります。
これより前のコンスタンティヌス大帝の時代、ローマは経済の変容によって銀や金が乏しくなっていました。そのため大帝は通貨改革によって「ソリダス金貨」を発行し、ローマ帝国の財政を維持しました。
ソリダス金貨は薄手であり、最盛期のアウレウス金貨の約半分の重量になっています。その分、金の純度は純金近くにして、帝国内外での流通をスムーズにしました。
この金貨はビザンツ帝国の時代にも引き継がれ、地中海交易の要になったコインとして「中世のドル」とも呼ばれています。
一部の階級の人間が持つだけでなく、広く交易用としても使用されたため、発行枚数は多かったと考えられています。
ソリダス金貨は今でも海外のオークションに出品され、比較的入手しやすい種類の金貨です。ただ「薄く」「純度が高い」ため、折れ曲がったり傷がついているものもあります。またモティーフの細部が非常に細かく造られているため、磨耗しやすい金貨でもあったようです。
「金」という材質は今も昔も変わらない輝きを保つものであり、その為、人類の長い長い歴史の中でも、共通に「価値あるもの」とされてきました。
古代ギリシャ・ローマの金貨は貴重な歴史的遺産であると共に、古代も今も「価値ある現物資産」です。
入手された後は大切に保管し、次世代に継承していただくことをお願いいたします。
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