こんにちは。
一か月前にもコロナウィルスについて触れましたが、4月末の現時点では相変わらずといった状況です。緊急事態宣言は出されて3週間以上が経ちましたが、感染者数の推移や経済活動の停止、各所での混乱など、なかなか明るいニュースが入ってきません。
日常生活や街の様子も様変わりし、この非常時が続けばそのまま「日常」になってしまうような気もするようで、なんともスッキリしない感じがします。
ワールドコインギャラリーのある東京・御徒町の商業施設「2k540」では、予定通り5月6日(水)に緊急事態宣言が解除されてもすぐには営業を再開せず、一週間の期間を置いた5月15日(金)から再開となるようです。
国内外のコインオークションではネット入札だけになり、会場の使用は目下停止されています。入札状況は普段より多い位ですがやはり会場でのやり取り、人と人との会話が無いのは何とも言えないさみしさもあります。
海外の場合、落札しても配送状況に問題があり、普段よりも遅延が発生しています。現地の会社も出勤者が減り、出荷しても郵便や配送業者が、配送物の増加で逼迫している状況があります。日本への航空便自体も減っているため、物流が滞るのは仕方ありません。
それでも何とか動いているのは配送してくださる方がいるからで、本当にありがたいことです。医療や介護、保健や衛生、金融や行政などに関わる方々も、社会活動を維持するために日夜努めていただき、感謝の念に堪えません。
いつまでこの状況が続くかは分かりませんが、延々と続くことはなく、勿論どこかの時点で収束し始めると思います。
現状では感染せず健康であることを第一に、収束した後の希望を持って生活することが大切です。皆様もどうかご自愛いただきたく願います。
今回は古代ローマで発行されたコインにみる希望の女神 スペースをご紹介します。このような状況だからこそ、古代のコインを通じて希望を得ていきたいと思います。
スペース(Spes)は希望を象徴化した女神像であり、古代ギリシャにおけるエルピスに相当すると云われました。
ギリシャ神話に登場するエルピスはそのまま希望と翻訳され、パンドラが箱を開けて疫病や戦災、犯罪や欠乏など様々な災いを解き放ってしまった際に、最後にまで箱に残っていたのがエルピス=希望と云われています。
箱を開けるパンドラ
(ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス, 1896年)
ローマにおいては第一次ポエニ戦争(BC264-BC241)の時期、カピトリウム丘の近くにスペース神殿が建立され、ユノー・ソスピタ(救済のジュノー)神殿、ピエタス(敬虔)神殿と並ぶ形で存在しました。エスクイリヌス丘の上にはスペース・ウェトゥス(古来の希望)神殿が存在し、8月1日にはローマ市民による祝祭が行われていました。
帝政時代になるとコインの裏面にその立像が表現されるようになり、ローマ帝国全土にそのイメージが広がることになりました。
クラウディウス帝治世下のセステルティウス貨
スペースは右手で小さな花を持ち、左手で長衣の裾をつまみ上げた乙女の姿で表現されています。大き過ぎる衣と小さな花は、将来の成長と開花を象徴し、未来への希望を示していると云われています。速足で歩きだしそうな構図が乙女の若さと、将来への前向きな期待を体現しています。
スペース女神像は帝政期を通して、多くのコインに表現されています。未来への希望が、国家と市民にとって重要な活力になることを皇帝たちも理解していたのかもしれません。
ティトゥス帝 セステルティウス貨
ハドリアヌス帝 デナリウス銀貨
コンモドゥス帝 アウレウス金貨
ルキラ妃 アウレウス金貨
裏面に表現されているのは協調と和合の女神コンコルディアですが、傍らには子どもサイズの立像が配されています。長衣の裾を掴みあげる様子から、スペース女神像と分かります。協調からなる希望を示すためか、コンコルディア女神坐像の傍らに小さなスペース女神立像を配する表現は、他の皇帝のコインでも多く見られます。
サロニヌス アントニニアヌス貨
皇帝とスペース女神が対等に向き合う珍しい構図。上部には輝く星と共に「SPES PVBLICA (=国家の希望)」銘が配されています。
帝政ローマ時代の後、スペース女神は信仰上もコインの上からもひっそりと姿を消してしまいました。ルネサンス以降、希望の具現化としてメダルや芸術作品に表されたものが見られるのみです。こうした図像は、ローマ時代のコインの構図を参考にして作られたとみられます。
シャーロット・オーガスタ王女(1796年~1817年)の婚約を祝して造られた大型ブロンズメダル。裏面にはスペース女神と「SPES PVBLICA (=国家の希望)」銘が配されています。
女神は花を差し出し、左手で豊穣の角(コルヌ・コピア)を持っています。さらに運命を象徴する球と舵(=運命の流れを左右する)を携え、王女の運命に対する希望を示しています。
現代のコインにも希望の女神が表現されたものが存在します。1960年代まで南アフリカで発行されていたコインには、裏面に「希望の女神」と呼ばれる図像が採用されていました。
南アフリカ 1953年 1シリング銀貨
海岸に立ち、風に立ち向かうような姿で表現された女性の立像は、右手で船の錨を支え、遠くの輝く星を見据えています。
キリスト教圏では十字架が「信仰」、ハートが「愛」の象徴であるように、錨が「希望」の象徴とされています。リレー競争の最終走者をアンカー(Anchor=錨)と呼ぶのも、勝利への希望を託す意味が込められています。
南アフリカでは喜望峰(Cape of Good Hope)を象徴する女神像として、この図像が切手などにも用いられていました。希望である「Good Hope」と、大西洋とインド洋を結ぶ重要航路としての意味でも、錨がモティーフとして選ばれたと思われます。
1961年、アパルトヘイト政策を巡ってイギリスと対立した南アフリカは英連邦を脱退。国号を「南アフリカ共和国」に改め、通貨もポンド&シリング幣制からランド&セント幣制に変更されました。女神像はそのまま10セント銀貨に引き継がれましたが、なぜか輝く星が排除されています。
使徒パウロが信徒たちに宛てた手紙において「希望は魂の錨」として言及した通り、航海が盛んだった古代ギリシャ・ローマでは、錨は荒波の中で船が流されないように留め置く、非常に重要なものとして認識されていました。ギリシャ・ローマ時代のコインにも、錨がモティーフとして表現されている例が幾つか見られます。
現在は世の中全体が嵐の中にあります。しかし希望を保ち続けることで不安に押し流されないようにし、荒波を無事に切り抜けていければと思います。
晴れて安全なところに抜けられるよう、皆様もどうかご自愛ください。
・古代ギリシャ・ローマコイン&コインジュエリー専門店
「World Coin Gallery」
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