こんにちは。
年が明けて早4週間が経ちました。歳末から新年が明けてお正月気分もあっという間に過ぎてしまいます。
1月1日に発生した能登半島の震災で被害に遭われた方々には心よりお見舞い申し上げます。寒さが強まる時期の避難生活は過酷で厳しいものと察せられます。一刻も早く復興復旧が進み、再び日常生活を取り戻せるよう願っております。
新しい年を迎えてまだ一か月と経っていませんが、国内外では様々なことが起きていますね。今年が平穏で、少しでも過ごしやすい年になることを願ってやみません。
今年最初は辰年に因み「竜」をテーマにしたコインをご紹介します。
十二支の中で唯一神話上の生き物である竜は、古代中国では皇帝の権威を象徴する神獣とされてきました。水と結び付けられることが多く、天空を舞って雷雨をもたらす霊獣ともされたことから、農耕社会において重要な位置づけを占めていました。端午の節句の鯉のぼりにみられるように、出世の象徴としてみられることもあります。
そのため中国では十二支の中で最も人気のある生き物であり、縁起の良さから様々なモティーフに取り入れられています。
中国 2024 20元札(ポリマー製) 辰年記念
見た目は鱗に覆われた大蛇のようでありながら手足があり、ひげと角を有しています。この姿から古代のクジラやワニ、恐竜の化石からインスピレーションを得て生み出されたとも考えられています。
一方ヨーロッパでは竜=ドラゴンは巨大な怪獣の一種と捉えられており、特に中世の騎士物語では正義の騎士によって退治される恐ろしい存在として描かれてきました。見た目は大蛇よりもトカゲに近く、背翼を有しています。また火や毒液を吐く設定も組み込まれ、東洋とは異なり邪悪で凶暴な怪物としてのイメージが定着しています。しかし見た目の特徴は東洋の竜と類似点が多く、西洋と東洋で何らかの文化的接点があったことが窺えます。
その強さから守護獣として紋章に取り入れられることもありましたが、イメージの悪さからか、コインの図像として単体で表現される事例は多くありません。
中国や日本において竜がコインに表現されるようになったのは19世紀以降であり、当初は皇帝や天皇を象徴する意匠として表現されました。また長い体のうねりや細かい鱗は図像を複雑化させ、偽造防止にも役立ちました。
日本 明治4年(1871) 20銭銀貨 (*ペンダントトップ)
清国 1890-1908 一銭四分四厘銀貨
構図は日本の竜図と似ていますが、竜の顔は正面を向いています。
清国 1900-1906 10文銅貨
銀貨と異なり顔は横を向いており、日本の竜と類似した表現になっています。
現代では中華圏を中心に竜の意匠が記念コインに多く表現されています。特に辰年に合わせて発行される記念コインは人気があり、他の干支コインより高値で取引される傾向にあります。
英領香港 1976 1000ドル金貨
北朝鮮 1999 10ウォン銀貨 青龍
青龍は古代中国において東西南北を守護する神獣のひとつ。朱雀、玄武、白虎と並んで吉兆と見做されていました。東方を守護し、春を齎す霊力を信じられていました。
一方、ヨーロッパでは竜=ドラゴンは不吉な存在とされたため、騎士に退治される姿で表現されました。特にドラゴン退治の伝説で知られる聖ゲオルギオスはイギリスやドイツ、ロシアなど各地で守護聖人として崇められたことから、当地で発行されるコインの意匠として多く登場しました。
神聖ローマ帝国 マンスフェルト=ボルンシュテット 1669 1/3ターレル
聖ゲオルギオスは3世紀末にパレスチナのキリスト教徒の家庭に生まれ、後にローマ帝国の軍人となりましたが、キリスト教徒に対する迫害によって殉教したと伝えられています。
中世には聖人に列せられ、聖人伝『黄金伝説』では人々を悩ませるドラゴンから王女を救い出す物語が広く知られるようになりました。そのため聖ゲオルギオス=ドラゴン退治のイメージが定着するようになりました。
生贄にされた姫を救い出す悪竜退治の英雄伝説は、古代ギリシャのペルセウスとアンドロメダ、日本のヤマタノオロチなど、世界中で類似例がみられます。
イギリス 1889 クラウン銀貨
聖ゲオルギオス(セントジョージ)はイングランドの守護聖人とされ、白地に赤十字のセントジョージクロスはイングランド国旗になっています。
イギリスでは19世紀初頭に名匠ベネデット・ピストルッチの手による図像がコインに採用され、200年以上を経た現代に至るまでイギリスコインを代表するデザインとして定着しています。
イギリス 1935 クラウン銀貨
ジョージ5世の治世25周年を記念して発行されたクラウン銀貨には、新たなセントジョージ像が表現されました。パーシー・メットカルフによって手がけられた新たなセントジョージ像は現代風にアレンジされており、当時の芸術風潮も反映されています。ドラゴンはよりトカゲに近い描写であり、まさに怪物といった風貌です。
カナダ 2014 5ドル銀貨
英領アセンション諸島 2022 2ポンド銀貨
現代のアーティストによって再構築されたセントジョージ像は、より躍動感に溢れた表現になっています。ドラゴンの描写は時代によって変化し、現代では恐竜のイメージに近い描写です。
マン島 1995 1エンジェル銀貨
『ヨハネの黙示録』には大天使ミカエルが悪の象徴であるドラゴンと戦い、これを討ち果たす場面が描写されています。聖ゲオルギオスと類似する描写であり、ドラゴンがキリスト教において悪を象徴するイメージだったことが分かります。
オーストリア 1959 25シリング銀貨
聖書では悪の象徴と捉えられていたドラゴンも、地域によっては守護獣と見做されることもありました。ドイツやオーストリアの伝承ではリントヴルムと呼ばれるドラゴンが登場し、川の主、流域都市の守護獣とされました。いくつかの自治体ではこのリントヴルムが紋章として採用されています。
アイスランド 1974 1000クローナ銀貨
アイスランドの伝承において国の四方を護るとされた牡牛、大鷲、ドラゴン、巨人が表現されています。ドラゴンはアイスランドの北東を守護するとされ、古代中国の四神に類似しています。これはキリスト教が定着する以前のアイスランドの信仰に基づいており、今なお古来からの伝承が重視されている証でもあります。
シンガポール 1968 10セント白銅貨
タツノオトシゴはその名の通り竜から名づけられた魚です。見た目が小さな竜を想起させるため名づけられました。ヨーロッパでは馬を連想させる姿から海馬(Seahorse, Hippocampus)とも呼ばれています。
雄が卵と稚魚を育児嚢で保護する生態から、安産と子育てのお守りとして干物を身につける風習もありました。
パラオ 1995 1ドル白銅貨
パラオ 2005 1ドル白銅貨
ブータン 1979 25チェルタム白銅貨(*ペンダントトップ)
双魚は密教における幸運の象徴であり、西洋の魚座にあたります。チベットや中国では鯉が滝を登って竜になる登竜門の故事から、昇進や仕事運などの立身出世、子孫繁栄を象徴する吉祥のひとつとされています。
鯉の口元にあるひげや鱗の様子、生命力のたくましさなどから、出世すると竜になることを連想させたと思われます。
そして現代の竜といえば「恐竜」です。竜はワニや恐竜など古代生物の化石から連想された生物でしたが、19世紀以降、科学的なアプローチからその正体を探る研究が進められてきました。空想上の生物ではなく、かつて地球に存在した実在の「竜」を解明する研究は今も進められ、日々新しい発見や仮説が登場しています。
古代の地球を想像させるロマンの象徴として、子供から大人まで夢中させる恐竜は、現代では記念コインにおける人気テーマのひとつとなりました。
英語のdinosaurは「恐ろしいトカゲ」を意味するギリシャ語が語源になっています。日本では明治時代に古生物学者の横山又次郎が著した化石に関する書籍で「恐龍」と訳したことが始まりです。あえて「恐蜥」とは訳さず、その巨大さや特徴から竜を想起させるためこの訳になったとされています。
マン島 1993 1クラウン白銅貨
イグアノドンは約1億2000万年前に生息していた大型の草食恐竜です。19世紀初頭にイギリスのギデオン・マンテルによって発見され、歯の特徴がイグアナに似ていることから「イグアノドン(=イグアナの歯)」と名づけられました。マンテルは発見した化石を巨大な爬虫類のものとし、絶滅した巨大生物の存在が知られるようになりました。この発見は恐竜研究史において重要な最初の一歩とされ、マンテルは恐竜を最初に発見した人物、イグアノドンは最初に発見・命名された恐竜とも云われます。
エリトリア 1993 1ドル白銅貨
「三つの角」を意味するトリケラトプスはサイのような見た目をしており、草食性で群れによる集団生活を営んでいたと考えられます。ティラノサウルスやブラキオサウルスと並ぶ恐竜の代表格として人気があります。
リベリア 1993 1ドル白銅貨
プロトケラトプスは体長2mほどと恐竜の中では小型であり、群れをなして生活した痕跡が見つかっていることから「白亜紀の羊」とも称されます。発見数が多くかなりの個体がまとまって生息していたとみられています。また最初に卵や巣の化石が発見された恐竜でもあります。
英領ジブラルタル 1993 1クラウン白銅貨
ステゴサウルスは背中に数多くのパネル状の突起があることから、大型の肉食恐竜から身を守るために進化した特徴とみられていました。しかし近年は血管が通っていた痕跡が見つかったため、体温調節の意味があったと提唱されています。この特徴は怪獣ゴジラのビジュアルの元になっています。
20世紀半ば以降は日本でも恐竜化石の発掘と研究が進み、世界的にも注目されるようになっています。徳に福井県では豊富な化石が発掘されていることから、地方自治法60年を記念したコインのデザインとして表現されました。日本の貨幣に恐竜が登場した稀有な例です。
日本 平成22年(2010) 千円銀貨&五百円貨
福井県内で化石が発見された肉食性のフクイラプトルと、草食性のフクイサウルス(*イグアノドンの一種で通称「福井竜」とも呼ばれる)が大きく表現されています。
明治の竜から始まり、21世紀には恐竜がコインに登場するようになりました。今後は空想の生物ではなく実在の生物として、竜が再びお目見えするかもしれません。
辰年は株式市場では「辰巳天井」とも呼ばれ、昇り竜のように相場も上昇していく年と云われています。景気も運気も右肩上がりで、力強く上向いていくと良いですね。
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